酒で煮ると超電導体に変わる現象の解明に成功
―リンゴ酸、クエン酸などが余分な鉄を除去
:物質・材料研究機構/慶應義塾大学

 (独)物質・材料研究機構と慶應義塾大学先端生命科学研究所は7月16日、鉄系超電導関連物質として知られる「鉄テルル化合物」を超電導体に変える酒の中の超電導誘発物質を突き止め、そのメカニズムを解明したと発表した。鉄テルル化合物を酒の中で煮るとリンゴ酸やクエン酸、βアラニンなどが化合物中の余分な鉄を取り除き、その結果この化合物は、超電導体になることが分かったという。
 物材研の研究チームは、4年ほど前に鉄テルル化合物(FeTe1-xSx)が超電導を示すこと、ただ、この化合物の一つであるFeTe0.8S0.2は空気中で数か月間放置することによって初めて超電導体になるという奇妙な性質を持つことを見出した。そこで研究チームは、この超電導化を短時間で起こさせる方法を探索し、酒で煮るのが有効なこと、ただし、酒であればどれも同じ効果があるわけではなく、赤ワイン、白ワイン、ビール、日本酒、ウイスキー、焼酎の順に有効で、アルコール(水・エタノール混合液)だけでは効果が少ないことなどを見出した。しかし、なぜこうした現象が起こるのかはこれまで不明だった。
 研究チームは今回、慶応大先端研が独自に開発した質量分析装置(CE-TOFMS)を用い、ワインや日本酒など6種類の酒に含まれる成分を分析、220種類の低分子を定量した。そのうえで、それらの成分の濃度と超電導体積率という指標をもとに超電導を誘発する候補物質10数種類を探り出した。これら候補物質のうち特に有望とみられるリンゴ酸、クエン酸、βアラニンについて、その濃度を赤ワインと同程度に調整して鉄テルル化合物を煮たところ、実際に超電導が誘発されることが確認できたという。
 候補物質には、いずれも金属イオンを挟み込むように結合するいわゆるキレート作用があることから、煮た後の溶液を調べたところ、鉄イオンが溶出していることが判明。これらの結果から、酒中の超電導誘発因子は、キレート効果を持つ有機酸などであり、それらが超電導を抑制する過剰な鉄を試料から除去することで超電導が誘発されると結論付けた。
 今回の成果は、鉄系超電導物質の発現メカニズムの解明や超電導転移温度の高い新物質の探索、応用開発などに役立つとしている。

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