物質の状態が変化する際の核生成で新たな理論を発表
:物質・材料研究機構

 (独)物質・材料研究機構は2月22日、物質の状態が変化する際のきっかけとなる核生成と呼ばれる現象について、これまで知られていない新たな過程があることと、それを説明する理論を発見したと発表した。
 水は、0℃以下に冷やすと液体(液相)から固体(固相)に、また沸騰した水を100℃以下に冷やすと気体(気相)から液体(液相)に変わる。水の凝固、凝縮のように物質の状態(相)は、環境の変化によって変わる。この状態変化(相転移)が起こるきっかけとなるのが核の生成で、核生成は相転移を起こす系での安定状態から準安定状態の間で起こる普遍的な現象とされている。
 この核生成については、準安定相中に現れる安定相の核を構成する粒子集合体(ドロップレット)が、熱ゆらぎなどにより臨界核(成長と消滅の境の大きさの核)より大きくなると自発的に核が成長して相変化を引き起こし、物質それぞれの臨界核の大きさはほぼnm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)大の特定の値を持つことが知られている。
 ただ、これは分子間に働く相互作用の距離が短い場合には正しいが、相互作用が遠くに及ぶ場合は既知の微視的な核生成とは本質的に異なる性質やメカニズムが存在しうる可能性が指摘されていた。
 物材研の西野正理主任研究員らは今回、分子間相互作用が遠く離れた分子にまで及ぶスピンクロスオーバー化合物の核生成を計算科学の手法を用いて理論的に調べ、長距離相互作用の系の核生成は短距離相互作用の系の微視的核生成過程とは異なる巨視的な過程に成りうることを解明した。
 スピンクロスオーバー化合物は、温度や圧力の変化、光照射、磁場印加などにより異なるスピン状態に変化する、つまり、非磁性状態と磁性状態の間で相転移する物質で、相が変化する時に系の体積も大きく変わる。大きさの異なる双安定状態を持つことで弾性ひずみが生じ、弾性ひずみにより遠く離れた分子にまで分子間相互作用が及ぶこのスピンクロスオーバー系においては、核の臨界的な大きさはある特定の値を持つのではなく、全系の大きさに比例して臨界核は大きくなり、系の大きさに相対的であることが明らかになったという。
 今回の研究成果は、形状記憶に関係の深いマルテンサイト変態や、磁化によって変形する磁気ひずみ(磁歪)などのメカニズムの理解に有用な知見を与えることが期待できるという。

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