(独)産業技術総合研究所は1月31日、東京大学と共同で電子素子が直面する高集積化の壁を破る新原理素子として注目される「モットトランジスタ」の実現に有望な技術を開発したと発表した。
素子作りに欠かせない強相関電子材料と呼ばれる材料が、わずかな電圧で絶縁体から金属に変化することを確認した。研究グループは、新材料を用いて試作した素子の動作も確認しており、今回の成果が電子素子の高性能化・低消費電力化に新たな道を開くと期待している。
半導体エレクトロニクスは、これまでトランジスタ素子の微細化・高集積化によって、高性能化や低価格化を実現してきた。しかし、10nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)以下に微細化すると原理的に高性能化が不可能なため、新原理の素子の開発が求められていた。強相関電子材料を用いるモットトランジスタは、その有力候補の一つ。
強相関電子材料は、電子が自由に振る舞える金属や半導体とは異なり、高い電子密度のために電子同士の相互作用で動けなかったり、かろうじて動けたりする状態にある。この特性をトランジスタで電子の通り道になるチャンネル材料として使うのがモットトランジスタ。ただ、そのためには、低い電圧でチャンネル材料を絶縁体か金属に自由に切り替え、電子を流したり止めたりできるようにしないとならない。
実験では、強相関電子材料としてカルシウムマンガン酸化物を使い、その薄膜を作る際に基板の種類を変えて薄膜に圧縮ひずみがかかるようにした。その結果、わずかな電圧でも絶縁体から金属に変化した。そこで、この薄膜を用いてトランジスタを試作したところ、2ボルト程度の小さな電圧でも電子の流れを制御できることが分かった。
研究グループは、今回の成果について「モットトランジスタの開発に道筋をつけるもの」といっており、今後さらに性能の高い強相関電子材料の開発など実用化に向けた研究に力を入れる。
No.2012-5
2012年1月30日~2012年2月5日