(独)産業技術総合研究所は1月13日、タンパク質の合成に関与している翻訳因子と呼ばれるタンパク質が、ある種のウイルスにおけるRNA(リボ核酸)の合成過程でRNAの伸長促進を補助する役割も果たしていることを発見したと発表した。この事実は、太古生命体において、このタンパク質因子は元来RNAの複製や転写を促進する補因子としての役割りを担っていたが、その後出現した現存生命体がそのRNA合成補因子をタンパク質合成システムに取り込んだ可能性を考えさせるという。生命進化のナゾに迫る手掛かりの一つが得られたとしている。
現存するほとんどの生物では、RNAを合成するシステムとタンパク質を合成するシステムは互いに独立しているが、中にはタンパク質合成に必要な因子がRNA合成にも必要な因子として組み込まれているウイルスがいる。大腸菌に感染し増殖するQβウイルスは、その一種で、RNAの複製、転写を担うRNA合成酵素が宿主(感染先の大腸菌)の翻訳因子と複合体を形成し、その複合体形成がRNAの転写、複製に必須であることが知られている。
研究チームは今回、そのウイルスを対象に、RNA合成酵素と翻訳因子の複合体が、RNAの合成を開始しRNA鎖を伸長、合成していく過程についてX線構造解析と、構造をもとにした機能解析を行い、翻訳因子のRNA合成過程における役割を調べた。
その結果、その翻訳因子は、RNA合成伸長過程において、鋳型RNAと合成されたRNAの2重鎖をほどき、効率よくRNA伸長合成が行われるのを補助すると共に、鋳型RNAの出口トンネルをRNA合成酵素と共同で形成することによって、RNAの転写,複製が完了するまで鋳型RNAが複合体から解離してしまうのを防ぐ役割も果たしていることを突き止めた。
太古生命体に関する「RNAワールド仮説」では、生命体を構成する分子はRNAであり、RNA分子が遺伝情報の保存分子で、かつ化学反応を触媒する酵素であったと考えられている。今回の研究で明らかになった事実は、現生命体のタンパク質合成システムが、このRNA合成補因子を翻訳因子として取り込んだ可能性を示唆しているという。
研究チームは今後、生命が進化する過程でRNAの機能がタンパク質へ置き換わる遷移の分子メカニズムや分子進化、RNA合成システム、タンパク質合成システムの進化などの解明を進めたいとしている。
No.2012-2
2012年1月9日~2012年1月15日