記憶のメカニズムの一部、分子レベルで解明
:筑波大学/慶応大学

 筑波大学と慶應義塾大学は1月12日、記憶が作られ失われるメカニズムの一端を解明したと発表した。記憶の形成、消失は、主に神経細胞間の信号の受け渡しを担っているシナプス(神経細胞間の接点)における情報伝達効率の増大あるいは低下と考えられている。研究チームは今回、情報伝達効率の低下をもたらす神経伝達物質受容体の減少の仕組みを解き明かした。記憶や忘却の理解に迫る成果で、記憶障害改善薬の開発などにつながる可能性があるという。
 神経細胞が興奮すると神経伝達物質のグルタミン酸がシナプス中に放出され、それを後方の神経細胞のグルタミン酸受容体が受け止めることによって興奮が伝わっていく。近年の研究によると、学習に伴ってこのグルタミン酸受容体の数が増減することが知られており、この受容体の増減が記憶の形成と消去の基礎過程であると考えられている。しかし、受容体の数がどのようなメカニズムで増減するのかは、よく分かっていなかった。
 研究チームは、記憶に重要な役割を果たしている「海馬」という脳の部位の神経細胞をマウス(ハツカネズミ)から取り出し、シナプス伝達が長期的に低下する、つまりグルタミン酸受容体の数が減少する、いわゆる長期抑圧(LTD)現象が引き起こされるメカニズムを調べた。 
 その結果、細胞表面にあるタンパク質を細胞内に回収するメカニズムの一つであるクラスリン依存性エンドサイトーシスという現象によって、受容体の数の減少が引き起こされている姿を分子レベルで解明することに成功した。この中で、PIP2と呼ばれる脂質を合成する酵素(PIP5Kγ661)の活性制御が記憶を制御する鍵の一つであることなどが浮き彫りになったという。
 記憶の分子メカニズムに関する今回の成果は、将来的にはアルツハイマー病に代表される記憶・学習能力の低下の治療などへの応用が期待できるとしている。

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