[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

がんの免疫環境に影響及ぼす腸内細菌の働きを解明―免疫チェックポイント阻害薬の効果高める:国立がん研究センター/東海国立大学機構名古屋大学/京都大学/理化学研究所ほか

(2025年7月15日発表)

 (国)国立がん研究センターの研究チームは7月15日、免疫チェックポイント阻害薬の作用に関与する新たな腸内細菌を同定し、培養に成功、作用メカニズムを解明したと発表した。免疫チェックポイント阻害薬を用いたがんの治療への寄与が期待されるという。

 免疫チェックポイント阻害薬は、免疫システムに元来備わっている、免疫にブレーキをかける働きをする、通称免疫チェックポイントを阻害する薬剤。

 がんは免疫からの攻撃をこの免疫抑制機構である免疫チェックポイントを利用して逃れているので、これを阻害して免疫を働かせ、がん治療を促進しようというもの。最近ではいろいろながんの治療に用いられている。

 この免疫チェックポイント阻害薬の治療効果には,腸内細菌が関係することが報告されているが、腸に存在する細菌が、なぜ腸ではない肺などの臓器にできたがんに影響を及ぼすのかなど、詳細はわかっていない。

 研究チームは今回、免疫チェックポイント阻害薬の作用に関与する新たな腸内細菌として、ルミノコッカス科に属するYB328株を同定、培養に成功し、作用メカニズムを解明した。

 YB328株は腸内で免疫応答の司令塔である樹状細胞を活性化し、その樹状細胞ががん組織まで移動することで免疫効果を発揮することがわかった。それとともに、腸内細菌叢の多様化を通じた樹状細胞のさらなる活性化により、免疫チェックポイント阻害薬の効果が高まる可能性が示された。

 また、YB328株は、がんを攻撃する免疫細胞ががんの中に多く存在することと強く関係する腸内細菌であることが明らかになった。

 一連の研究は、腸内細菌が腸から離れた臓器に存在するがんの免疫環境に影響を及ぼす仕組みを世界で初めて明らかにし、特定の細菌の投与によって阻害薬の効果が改善される分子メカニズムも解明した。

 YB328株は、がん免疫療法の効果を高める新たな免疫賦活(ふかつ)剤としての可能性を持っており、今後の臨床応用が期待されるとしている。