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イネの種子の細菌病を抑える微生物を発見―殺虫剤とは異なる機能で、新たな病害防除技術に期待:農業・食品産業技術総合研究機構

(2025年7月15日発表)

 (国)農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門の秋本 千春 グループ長補佐らは、イネ種子の伝染病を抑える細菌を発見したと7月15日に発表した。この細菌はイネと共生していて病原菌を抑えるたんぱく質を作る。自然界のメカニズムを活用した新たな細菌病防除対策として期待されている。

 イネの病害として「もみ枯細菌病」と「苗立枯細菌病」が知られている。それぞれ細菌の感染で広がる。高温多湿の環境で発生しやすく、日本でも温暖な地域で多発している。地球温暖化に伴って世界的に拡大する恐れがあり、食糧難につながると心配される。

 病原菌に感染したイネは一般的には生育途中に枯死するが、まれに病気を発症しないまま生き残り、収穫時に混入することがある。気付きにくいため防除対策が難しかった。殺菌剤を使うこともあるが、使用しているうちに効かなくなる耐性菌の出現が問題になっていた。

 農研機構は、環境に配慮した持続可能な病害対策を目指し、この細菌病の発症を抑える微生物の探索に取り組んできた。

 植物体内に住み着く内生細菌の中には病害を抑える機能を持つものがあり、その細菌に注目した。

 インディカ型イネ品種の「Nona Bokra(ノナボクラ)」で、もみ枯細菌病に抵抗性を持つことが知られている。ここに多く共生していたのが病原性のない「バークホルデリア・グラディオリ」(NB6)であり、病害の抑制効果とそのメカニズム解明に取り組んだ。

 その結果、もみ枯細菌病と苗立枯細菌病を抑える効果が見つかった。さらにNB6の作り出すたんぱく質「テイロシン」が発症を抑える物質であることも明らかにした。

 テイロシンはイネに害を及ぼす病原菌を殺菌するが、有益な微生物や植物そのものには影響を与えない。テイロシンは「溶菌」と呼ばれる殺菌メカニズムを持つ。細菌の表面構造を破壊してその細胞を残さず溶けるように消滅させる効果がある。

 農業で使われてきた殺菌剤とは大きく異なることから、殺菌剤が効かなかった耐性菌防除への活用が期待されている。