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患者iPS細胞で難病モデル―治療薬開発などに威力:理化学研究所ほか

(2022年9月20日発表)

 理化学研究所と東京都医学総合研究所、筑波大学は9月20日、肝臓や脳を中心に全身障害を引き起こす難病「ウィルソン病」の治療薬開発につながる新たな手がかりを得たと発表した。患者の細胞から作成したiPS細胞を用いて培養皿上で難病を再現することに成功、症状を抑制する物質を見出すことに成功した。新しい治療薬の開発につながると期待している。

 ウィルソン病は、細胞から銅を排出する働きをする遺伝子の変異によって起きる。体内に不要な銅が蓄積し、肝臓や脳などを中心に全身性の障害が生じる。ただ、これまではこの難病を実験的に再現する優れた手法がなく、新しい薬や治療法を開発する上で壁になっていた。

 研究チームは今回、4人の患者から採取した細胞からどのような細胞、臓器にもなりうる能力を持つiPS細胞を作成。さらに、その細胞から最先端のゲノム編集技術などを用いてウィルソン病の症状を示す細胞を実験室内で培養、特定の遺伝子が患者によって異なる症状とどのような相互関係を持っているか、またその治療につながる新薬の候補物質などを探索した。

 その結果、ウィルソン病患者の肝細胞で脂質代謝などの異常を引き起こすことに関連した遺伝子を突き止めることに成功。さらに、ウィルソン病にかかると血中濃度が下がるとされる特定のたんぱく質「セルロプラスミン」を上昇させる新たな薬剤を2種類見つけることにも成功した。

 ウィルソン病の研究では、これまで同様の症状を示す実験用マウスが用いられてきたが、人間とマウスなどの動物種によって差があることなどにより十分な解明が進んでいなかった。また、患者個人の遺伝的背景によっても症状が異なることなどから、病気の解明や新薬開発の大きな壁になっていた。