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日本の緑茶「せいめい」の全ゲノム配列を解読―茶の風味や香り、収量の向上、病害虫への抵抗性獲得などに前進:農業・食品産業技術総合研究機構

(2025年4月22日発表)

(国)農業・食品産業技術総合研究機構 果樹茶業研究部門は4月22日、日本の緑茶「せいめい」の全ゲノム配列と遺伝子情報を解読したと発表した。世界的に需要の高まっている日本の緑茶の品種改良などに大きく役立つと期待される。

 日本の緑茶は鮮やかな緑色、新鮮な香り、豊かな旨みをもつのが特長。世界での日本食ブーム拡大と相まって緑茶の輸出が増加している。令和6年の輸出額は364億円に達した。

 農研機構は茶の原料となる茶葉の品種改良と取り組み、2020年に抹茶や粉末茶の生産に適した「せいめい」を開発した。収量、色合い、旨みに優れ、栽培面積は急速に拡大している。

 ところが日本茶の品種改良には長い時間がかかる。選抜された多くの品種を官能審査で評価し、収益特性、病害虫抵抗性を見極めるなどで多大な時間と労力が必要とされる。

 農業形質に関わる遺伝子などの発見には、作物の詳細なゲノム配列や遺伝子情報が不可欠になる。日本茶のゲノムは、ヒトゲノム(約30億)とほぼ同じくらい巨大な32億塩基対で構成される。これまでに分かった果樹のブドウ(約5億)やリンゴ(約7億)、モモ(約2億)などと比べても格段に大きいことから解読が困難とされた。

 最新型の次世代シーケンサー(高速・大量の塩基配列の解読装置)で解読したところ、ゲノム配列は全長約31億塩基対で、推定される32億塩基対のほぼ全体をカバーできた。ここから合計5万5,235個の遺伝子も見出された。

 この遺伝子の1割近い5,003個が日本の緑茶に特徴的な配列を持つことが分かった。その中にはカテキンなどポリフェノールを酸化するポリフェノール酸化酵素遺伝子やカフェイン合成酵素遺伝子などが含まれていた。

 緑茶は元々の緑色を保つために人為的に様々な工夫がなされてきた。収穫した茶葉を蒸したり炒ったりして加熱し、細胞内の酸化酵素の働きを速やかに止めている。日本の緑茶品種は収穫後の葉の酸化が起きにくい。さらに海外の系統と比べてカフェイン量が少ない特徴がある。

 ポリフェノール酸化酵素遺伝子やカフェイン合成酵素遺伝子に、日本の緑茶品種特有の配列があったことと関係しているとみられる。これは日本の緑茶品種の長い成立過程で、遺伝子が人為的に選抜されてきた可能性があるとの興味深い見方をしている。