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窒素肥料もたらす海鳥―絶滅後50年以内に繁殖地復元を:森林総合研究所ほか

(2025年6月2日発表)

 (国)森林総合研究所と東京都立大学などの研究チームは6月2日、肥料の三大要素の一つである窒素が海鳥によってどのように蓄積され、その絶滅後にどう消えていくかという窒素循環を解明したと発表した。世界自然遺産地域の小笠原諸島を対象に海鳥を中心とする生き物の果たす役割を調査、海鳥の絶滅後150年で糞として島に蓄積された窒素が大幅に減少することを明らかにし、絶滅後50年以内に繁殖地を復元することが重要と指摘した。

 研究には小笠原自然文化研究所、神奈川県立生命の星・地球博物館、自然環境研究センターも加わった。

 研究ではまず、人の手が入っておらず原生の自然が残されている南硫黄島を対象に調査した。植物のほか、昆虫やトカゲ、鳥、動物の死体を分解するハエや甲殻類、海鳥などを採集し、それらに含まれる窒素の安定同位体比(窒素14に対する15の比率)を分析した。この比率は「生き物の食べる・食べられる」関係を通じて濃縮され、最終的に海から運ばれた窒素が陸上よりも窒素15の比率が高くなることが知られている。

 今回の分析の結果、南硫黄島では窒素15の比率が高く、海からの窒素が生態系の中で循環していることが分かった。さらに、普段は陸地で過ごし、産卵時にだけ海辺に降りるカニの一種「カクレイワガニ」が海鳥の死体を食べて分解することで、窒素が生態系の中に拡散されることが明らかになった。

 一方、海鳥がいなくなって50年以上経つ北硫黄島や、150年以上が経つ父島と母島では、海鳥がもたらした窒素は地上で循環し、海鳥が絶滅した50年後程度であれば大きくは失われていないことが分かった。ただ、150年以上が経つと海からもたらされた窒素は、野生化したヤギの食害による森林の減少により土壌が流出して大幅に失われていた。

 これらの結果から、研究グループは「海鳥が絶滅した後も、少なくとも50年程度まで海由来の窒素が維持される」「この期間に海鳥の繁殖地を復元できれば、植物が利用できる窒素が大幅に減少する前に海からの供給を回復できる」として、生態系への影響を最小限に抑えられるとしている。