小麦の難病「黄さび病(きさびびょう)」解決に朗報―アジアに合った病害に強い新品種作れる:横浜市立大学/チューリッヒ大学/京都大学/国際農林水産業研究センター
(2025年6月5日発表発表)
横浜市立大学などの共同研究グループは6月5日、小麦の難病「黄さび病」への抵抗性を解析し、ヒマラヤ山脈地域の小麦のゲノム(全遺伝情報)に黄さび病に抵抗性を示す領域があることを見つけたと発表した。この新知見の応用により病害に強い小麦が作れる可能性があるという。共同研究には、横浜市立大学 木原生物学研究所、チューリッヒ大学(スイス)、京都大学、(国)国際農林水産業研究センターが参加した。
小麦、トウモロコシ、米は、世界三大穀物で、小麦は食料安全保障の鍵を握っているともいわれているが、小麦の収量減を引き起こす大規模な感染症が世界各地で発生しており、病害に強い小麦の開発が待たれ、その一つとして黄さび病に強い新品種の開発が挙がっている。
黄さび病は、葉や茎に斑点ができ生育が悪くなって穂の数や粒が減る病気で、20~30%の減収になるとまでいわれ、世界の小麦生産量を落としている。
木原生物学研の創始者である木原均博士(1893~1986年)による小麦のゲノム研究以来日本の小麦研究は、世界をリードしているといわれ、日本の研究者が収集したアジア各国の小麦は京都大によって維持されてきた。
こうした古くから栽培されてきた品種(在来品種)は、長年にわたって各地の農民が育ててきた品種で、環境に合った耐性や病原菌抵抗性を持っている。
しかし、アジアの小麦の在来品種は有用な資源と認められながらもこれまで育種(遺伝的に改良すること)への応用が遅れていた。
今回の研究は、ネパール、パキスタン、中国、日本の25の小麦品種を用いて黄さび病への抵抗性を研究した。
先ず行ったのが25品種の内の14品種から作った1,060の系統を、メキシコにある小麦育種の国際的研究拠点とスイスの圃場で2年にわたって栽培し黄さび病への抵抗性を評価、その上でゲノム情報を収集し解析した。
その結果、ネパールやパキスタンなどヒマラヤ山脈の南側の地域の在来品種のゲノムに新たな黄さび病抵抗性ゲノム領域があることを発見した。
ヒマラヤ南側地域は、黄さび病病原菌の起源地と考えられていることから「この地域の在来品種は長年にわたり多様な黄さび病菌にさらされてきたため、小麦の病原抵抗性が進化していた可能性が示唆されます」と研究グループはいっている。
今回発見された黄さび病に抵抗性を持つゲノム領域の小麦新種作りへの応用が期待される。