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上場企業の情報開示を左右する要因を解明―環境や労働安全に意識の高い企業は前向き、海外市場への上場は抑制的:筑波大学

(2025年6月4日発表)

 筑波大学ビジネスサイエンス系の吉田 光男 准教授の研究グループは6月4日、上場企業が情報開示にあたってどんな要因が後押しし、あるいは慎重にさせるかを、統計手法を使って体系的に解析したと発表した。環境や労働安全衛生の国際認証を取得している企業は情報開示に前向きだが、海外市場に上場している企業は抑制的だった。

 財務指標は、企業経営の健全性や業績を数値化して示すもので、経営者や投資家、金融機関などが経営・財務を評価・分析する際の基礎資料となる。

 昨今は企業の社会的責任(CSR)や環境・社会・ガバナンス(ESG)など、企業が任意で開示する非財務情報にも関心が高い。情報開示は経営の透明性を高める一方で、競争上のリスクを伴う心配もある。

 各企業がどんな要因で情報開示の有無や範囲を決めたかについて、売上高や総資産などとの関係を調べたものはあった。だが日本企業全体の傾向について多様な要因を網羅的に、大規模データで長期間にわたって分析した事例はほとんどなかった。

 研究グループは、国内の上場企業5,915社について15年以上のデータを基に、各社が統合報告書やCSR報告書の発行などを自主的に情報開示をしているかなどを調査した。

 財務指標(時価総額、総資産など)、企業特性(従業員数、海外上場の有無、ISO認証取得など)、上場市場の区分と業種、株主構成などから60項目を抽出。これらが情報開示とどう関連しているかの確率を、ロジスティック回帰分析という統計手法で分析した。

 その結果、国際認証の「環境(ISO14001)」や「労働安全衛生(ISO45001)」を得ている企業は自主的な情報開示が多かった。意識の高い企業が積極的に外部に伝えようとする姿勢と関連している。

 企業規模(総資産や売上高)が大きく、最上位の市場(プライム市場)に上場している企業は社会的影響力が大きく、高い説明責任が求められることも影響していた。

 一方で、海外の証券取引所にも上場している企業は自主的な情報開示の確率が低かった。複数市場への対応の複雑さや、競争環境にさらされるリスクを考慮した結果、開示を抑制する傾向にあると見ている。

 業種別では製造業や情報通信業が開示に積極的だが、農林水産業や鉱業などは抑える傾向にあった。

 今後は情報の量や質、開示内容の具体性などの要因が企業価値に与える影響について分析する。