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葉緑体に含まれるVIPP1たんぱく質の働きを解明―VIPP1を高発現させて高温に強い植物を作成:岡山大学/大阪大学/理化学研究所ほか

(2025年4月14日発表)

 岡山大学、大阪大学、(国)理化学研究所、京都産業大学の共同研究グループは4月14日、光合成反応を起こす葉緑体に含まれるVIPP1と呼ばれるたんぱく質の働きを明らかにし、このたんぱく質を利用して高温に強い植物を作り出したと発表した。

 光合成の効率を高めたり、作物の生産性を向上させたりする技術の開発につながる成果という。

 光合成は、太陽光のエネルギーと水を利用して、二酸化炭素から炭素化合物を作り出す生体反応。この反応は、葉緑体内に分布している「チラコイド膜」という袋状の膜で起こることが知られている。このチラコイド膜の中に、光エネルギーを吸収してエネルギー転換をする光合成装置が配置されている。

 チラコイド膜はこのように光合成の足場ともいえる重要な膜だが、どのように作られ維持されているかはよくわかっていなかった。

 研究グループは今回、葉緑体の膜に巨大な集合体となって存在しているVIPP1たんぱく質に着目し、細胞内におけるその構造と挙動を明らかにした。

 電子線トモグラフィーという技術を用いて分析した結果、このたんぱく質は、直径20-30 nm (ナノメートル、1nmは10億分の1m)の細長いフィラメント状の構造が束になって膜に隣接しており、高温などのストレスに応じて、その形を変化させていることがわかった。つまり、膜はリモデリング活性を示し、膜へのストレスに応答していることが判明した。

 また、植物でVIPP1たんぱく質をたくさん作らせると高温に強くなることも突き止めた。タバコを50℃の高温で処理したところ、野生型の個体では生育不全を起こすのに対して、VIPP1を高発現させた個体では耐性を示した。

 今回の研究成果を発展させれば、今後チラコイド膜を頑強にして、光で壊れやすい光合成装置を延命させることなどが期待されるという。さらに、気候変動や温暖化による強光や高温ストレスに耐性を持つ作物の開発や、バイオマス植物を用いたバイオ燃料・バイオ製品の素材開発への応用も見込まれるとしている。

電子線トモグラフィーによるVLPP1たんぱく質の構造
(出典:Oxford University Press,  https://doi.org/10.1093/plphys/kiaf137)