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鉄鋼産業における各国の資源循環の実態を調査―リサイクル材含有率の目標設定には国際的整合性が重要:国立環境研究所

(2025年6月2日発表)

 (国)国立環境研究所とライデン大学(オランダ)、ウィーン天然資源大学(オーストリア)の国際共同研究チームは、世界の鉄鋼産業における資源循環に関する調査を実施し、6月2日、調査結果と知見を発表した。

 近年国際的に議論が進む「リサイクル材含有率」の目標設定においては、各国の独自目標が鉄鋼生産の海外移転やスクラップの囲い込みを誘発することがないよう、国際的整合性の確保が求められる、などと指摘している。

 鉄鋼産業は世界の温室効果ガス排出量の約8%を占めており、脱炭素化に向け、使用済み鉄鋼材のリサイクルによる資源循環が進められている。しかし、世界各国の鉄鋼産業がどの程度循環型であるのか、その実態には国ごとにどのような違いがあるのか、その違いは何に起因しているのか、などは十分に明らかになっていない。

 そこで研究チームは、粗鋼生産量上位30カ国を対象に、2000年から2019年における鉄鋼材の生産・利用・廃棄の流れを詳細に調べた。

 調査の結果、製鋼時に利用されるリサイクル材の割合は、2000年から2019年の20年間にわたって30%程度で推移し、そのレベルで停滞していることが明らかになった。

 この間、使用済みとなった鉄鋼材がリサイクルされる割合は増加傾向を示し、2019年には85%がリサイクルされたと推定されたが、同期間に鉄鋼材の社会蓄積量は急速に増加しており、これがリサイクル材割合の増加を妨げていた。

 製鋼時に利用されるリサイクル材の割合は国によって大きく異なり、2019年時点では5%~96%の幅があった。タイが対象国中トップで96%、次いでイタリア72%、スペイン69%、トルコ69%、インドネシア68%、米国67%などと続き、リサイクル材の割合が最も低かったのはイランで5%、ついでサウジアラビア6%、ウクライナ24%、インド25%などだった。日本は31%で、30カ国中22位だった。

 ただ、リサイクル材の割合が必ずしも各国の資源循環に関する取り組みの優劣を示すものでないことが、国際貿易の構造を解析した結果明らかになった。製鋼時リサイクル材割合が高い国の中には、鉄鋼生産を海外委託したり、スクラップを輸入したりして、リサイクル材割合が低い国に依存している傾向が認められた。

 世界規模での資源循環推進には社会蓄積量の安定化を図ることが優先課題となるとしている。