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高分子が絡み合う性質を利用し自己修復ゲルを作成―リサイクル性に優れ、フレキシブル電子素子などへの応用に期待:物質・材料研究機構ほか

(2022年10月20日発表)

 (国)物質・材料研究機構(NIMS)の上山 祐史(かみやま ゆうじ)研究員(北海道大学大学院博士3年)、北海道大学大学院生命科学院の左光 貞樹(さみつ さだき)主幹研究員、山口大学の藤井 健太教授などの研究チームは10月20日、損傷部分を自発的に修復し耐久性を上げることのできる自己修復型高分子材料を簡便に作成する手法を開発したと発表した。リサイクル性に優れた循環型材料や、デジタル社会に必要とされるフレキシブル電子素子として有望視される。

 材料自身が自発的に損傷部分を修復するような材料を「自己修復高分子材料」という。頻繁な交換が難しい体内埋め込み型の医療機器をはじめ、安全維持が求められる都市インフラ設備、人体表面に適合させるための伸縮性と柔軟性をもったウェアラブル機器などへの応用が期待されている。

 これまで自己修復機能を作るには、化学反応を使った精密で複雑な合成法が必要となり、手間やコストがかかり不安定な面もあった。新しい成果は、高分子材料が元々持っている「絡み合い」や「弾性力」などの物理的特長をうまく利用した。こうした物理的性質を使った自己修復高分子の研究はあまり行われてこなかった。

 研究チームは、分子量が100万以上の超高分子ポリマーと不揮発なイオン液体からゲル材料「超高分子量ゲル」を作成した。小さい分子が多数結合して巨大な分子(高分子)を作る反応を重合という。イオンが乱雑に動き回る液体中では重合反応が効率よく進み、分子量100万以上の超高分子ポリマーを非常に簡便に合成できることを見つけ、「超高分子量ゲル」を作成した。

 ゲルはゼラチンや寒天の濃い液体のように粘度を増してゼリー状に固まったもの。超高分子量ポリマー同士は、あたかも絡まったヒモがほどけないような状態になる。

 物理的特性を調べたところ、ゲルは高い自己支持性があり高温でも長時間形状を保ち、圧縮試験などで高い力学特性があった。さらにゲルに高温・高圧をかければ再成型も可能で、リサイクル性に優れた特性も見つかった。

 ユニークな性質としては、高分子同士の絡み合いがほどけるのに時間がかかると見られていたが、室温で素早く自己修復性を示したこと。

 ダンベル状に形成した超高分子ゲルの真ん中をカッターで切断し、再び切断面同士を接着させて一定の時間を置いておくと自然に修復が進み、6時間後には切断前のゲルとほぼ同じ力学的特性が得られた。

 こうしたリサイクル性、自己修復性などに優れた高分子ゲルは、デジタル社会の基盤となる柔軟な電子素子として有望視されている。