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培養困難な微生物のゲノム解析―マイクロカプセル内で実現:理化学研究所

(2022年10月18日発表)

 (国)理化学研究所は10月18日、培養が難しい単細胞微生物のゲノム(全遺伝情報)解析を容易にする新技術を開発したと発表した。寒天の被膜でできたマイクロカプセル内に微生物を包み込んだ1兆分の1リットル単位の微小空間内でDNAを増幅することで、従来よりも高品質なゲノム情報が得られる。環境科学やバイオテクノロジー、医療分野などに役立つと期待している。

 微生物は環境、産業、医療などさまざまな分野で重要な役割を果たしているが、ほとんどの微生物は培養が困難で、その生態や機能には未知な部分が多い。そこで理研は、培養に頼らずに細胞が一つだけでもそのゲノム解析を可能にする技術の実現に取り組んだ。

 開発したのは、内部は液状で外側を海藻から精製した寒天状の皮膜で覆ったマイクロカプセル。安価な試薬と市販の実験器具を用いて、1回の操作で数十万個作製できる。マイクロカプセルの内部は1兆分の1リットル単位の微小空間になっており、その中に微生物のゲノムDNAと特殊な酵素「DNAポリメラーゼ」を入れることでDNAを一気に増やせる。

 木材などの植物セルロースを効率よく分解する酵素を持つシロアリ腸内細菌のゲノムDNAを用いた実験では、DNAをマイクロカプセル内に入れて増幅した。その結果、従来法に比べてより均一なゲノムDNA が得られ、微生物一細胞だけでも簡単にゲノムDNAを解析できることが分かった。従来は困難だった微生物間の複雑な相互作用の解明も可能になり、多様な腸内細菌が互いに作用を及ぼし合って人の健康を維持している仕組みの解明などにも役立つ。

 新技術に用いた試薬について、理研は「キットとして製品化することも見込まれる」としており、今後はマイクロカプセルの自動作成装置や単離装置を開発して新技術の普及・高度化を進めたいと話している。