数千のAIを用い生態系要素の相互作用を解く―霞ヶ浦の長期モニタリングデータに適用し成果:理化学研究所ほか
(2022年10月17日発表)
(国)理化学研究所と(国)国立環境研究所の共同研究グループは10月17日、生態系における時間的なデータから要素間の因果関係を推定する手法を開発し、これを茨城県霞ヶ浦(かすみがうら)の長期モニタリングデータに適用することにより、湖沼生態系の悪化要因などの一端を明らかにすることに成功したと発表した。
生態系は多くの構成要素が相互作用しているシステムであり、システムに含まれるあらゆる要素の関係を原因・結果の「因果ネットワーク」として捉えることは生態系のメカニズムの理解に重要とされている。
この方法として、因果ネットワークを時系列データから推定する手法が検討されてきたが、時系列に基づく既存の因果推定手法は、さまざまな生物・化学・物理プロセスからなる複合的なシステムである生態系への適用には適切とはいえない可能性が指摘されていた。
研究グループは今回、ニューラルネットワークを同時に数千以上利用することで、生物・化学・物理プロセスをまたぐ複合的かつ時間的な観測データから、要素間の因果ネットワークを推定できる手法「EcohNet」を開発した。
EcohNetは、時系列予測に適したニューラルネットワークの一種であるエコーステートネットワークをアンサンブル機械学習のフレームワークと統合させたもので、データの特徴によらない頑健な因果関係の検出を実現するなど、生態系のような複雑・複合的な対象の分析に適した特徴を持つという。
環境研は45年間にわたり霞ヶ浦の生物量、栄養塩濃度、水温など、湖沼生態系の様々な構成要素・因子の観測を継続している。そこで、研究グループはEcohNetをこの長期モニタリングデータに適用した。
その結果、水温が湖沼生態系全体の構成要素に支配的な影響を与えること、植物プランクトンのグループごとに制御要因が異なること、また、水質悪化に結び付くラン藻類の大増殖の要因の一端などが分かったという。
水温の影響では、栄養資源となる化学物質、植物プランクトン、動物プランクトンの群集の動態が水温を頂点とするほぼトップダウン型の因果ネットワークによって駆動される可能性が示された。
加えて、EcohNetは生態系の変動予測に利用できることが示されたという。