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骨粗しょう性の背骨圧迫骨折は、ベッドで安静にする療法が有効―安静群と非安静群の比較追跡研究で確認し、診療ガイドライン作りに貢献:筑波大学

(2022年8月29日発表)

 筑波大学医学医療系の船山 徹(ふなやま とおる)講師らの研究グループは8月29日、骨粗しょう症による背骨の圧迫骨折(椎体骨折)について、入院後2週間、ベッドでの安静療法を取るか否かでの治療成績を調べたところ、安静治療群の効果がはっきり高くなる根拠を見つけたと発表した。診療ガイドラインの実現につなげたいとしている。

 高齢化によって骨粗しょう性の背骨圧迫骨折が急増している。特に女性の発生率が高く、70歳代では年間1,000人当たり40人、80歳代では同84人に上り、日常的に増えている。

 骨折の発生直後(急性期)は通常ベッドで安静に寝かせるのが原則で、経過次第では手術などの処置をしてきた。しかしこうした診断、処置の裏付けとなるエビデンス(証拠)がなく、診療ガイドラインもなかった。医師の経験や病院の慣例に基づいて様々な治療がなされてきたのが実情だった。

 研究グループは、これまで初期の2週間にベッドでの入院安静を施す「保存療法」を導入し、治療成績を上げてきた。2週間程度の限定的な入院・ベッドでの安静なら、高齢者でも大部分の症例が改善し、寝たきりによる心身の機能低下のリスクは少ないことを明らかにしてきた。

 そこで、椎体骨折で2週間以内に治療を開始した65歳以上の患者を対象に、厳密にベッドに寝かせる「安静群」(116例、平均80.4歳)と、離床を許可する「非安静群」(108例、平均81.5歳)に分け、それぞれ6ケ月間観察した。

 期間中、手術にどのくらい移行したかを中心に観察した。また副次的には、①骨の癒合率、②背骨の圧迫が進み潰れていく状態(椎体圧潰)、③脊柱が丸く変形(後弯変形)する進行度や、④日常生活動作の推移、の4つについて、画像診断のMRI(磁気共鳴映像法)によって比較した。

 患者の年齢、性別、受傷部位、骨密度、血液検査、画像所見、合併症の発生などで両者の差はみられなかった。治療後の経過などが良くない(予後不良)所見があったのは、安静群では45例中3例(6.7%)、非安静群では37例中9例(24.3%)が手術へ移行し、安静群の手術移行率が明確に低かった。

 副次的項目でも安静群では、椎体圧潰や後弯変形の進行を有意に低減できた。こうしたことから、骨粗しょう性椎体骨折の初期2週間の入院、ベッドでの安静治療は骨折椎体の安定化に有利に働き、高齢者でも合併症を増加させることなく高い治療効果が得られたと結論付けた。

 この結果は将来の診断ガイドラインの作成に十分貢献できる。患者に大きな負担のかかる手術を減らすことが可能になるとみている。