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難病実験用マウスを開発―ミトコンドリア病の解明・治療へ:筑波大学ほか

(2022年8月24日発表)

 筑波大学と東北大学は8月24日、筋肉や中枢神経系に異常を起こす難病のミトコンドリア病を発症する実験用マウスを作ることに成功したと発表した。細胞内でエネルギー生産を担う小器官「ミトコンドリア」のDNA異常によって多様な症状を引き起こすほか、糖尿病やがん、老化の原因にもなる可能性が指摘されているミトコンドリア病の解明や治療薬の開発に役立つと期待している。

 細胞内には生物の遺伝情報のほとんどを持っている核DNAのほかに、エネルギー生産を担うミトコンドリアにもDNAが存在している。このDNAに異常が生じると生物の活動に欠かせないエネルギー代謝に異常が生じ、筋力低下や難聴、低身長、心筋症などさまざまな症状を引き起こす。さらに最近では、糖尿病やがん、老化などの原因にもなる可能性が指摘されている。

 そこで研究グループは、こうした多様な症状を引き起こすミトコンドリア病の発症機構の解明や治療法の開発に欠かせない実験用モデルマウス作りに取り組んだ。まず、ミトコンドリアDNAの遺伝情報の一部に病気の原因になる突然変異を持っている細胞を作った。さらにその細胞の一部を、細胞分裂し始めたばかりのマウスの受精卵に移植して成体に育てた。その結果、全身の細胞に、病気の原因になる突然変異を持つモデルマウスが実現できた。

 このモデルマウスを育てたところ、誕生後10カ月で血糖値や乳酸値の上昇など代謝異常があることが確認され、肝機能障害などが生じていることが分かった。これらの結果から、モデルマウスではミトコンドリアの機能不全を介して肝機能不全を伴う代謝異常が誘導されたと研究グループは判断した。

 今回実現したモデルマウスについて、研究グループは「ミトコンドリア病や多様なミトコンドリア関連疾患の治療法の探索や治療薬開発に役立つ」と話している。