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ヤシガニは “女性”優位?―琉球諸島での調査で:沖縄県立芸術大学/産業技術総合研究所ほか

(2020年6月22日発表)

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大型陸性甲殻類として知られるヤシガニ
(提供:藤田喜久 (沖縄県立芸術大学))

 沖縄県立芸術大学と(国)産業技術総合研究所、宮崎大学の研究グループは6月22日、琉球諸島のヤシガニの多くがメスで極端な性比の偏りがあるとの調査結果を発表した。大型のオスがほとんど観察されず、食用などに捕獲されている影響が大きいという。ただ、調査地域全体の遺伝的交流は維持されており、適切な資源管理をすれば個体群を回復できる可能性は高いという。

 ヤシガニはオオヤドカリ科に属する世界最大の陸生甲殻類。オスは大きくなると体長40㎝を超え、10本の肢を広げると1m以上にもなる。国内では主に沖縄県以南の島に生息、観光資源となっているほか、食用としても捕獲されるなど高い捕獲圧にさらされている。さらに生息環境の悪化なども影響して、絶滅が危惧されている。

 そこで研究グループは、琉球列島各地のヤシガニの資源状況を明らかにするため、伊江島や宮古島、石垣島、与那国島など8島に生息するヤシガニの体の大きさや性別、遺伝子サンプルを採取、詳しく分析した。その結果、調査した7地域中6地域で大型のオスの個体がほとんど見つからず、雌雄の比に偏りが生じていた。体長40㎝以上のオスは多良間村水納島以外ではほとんど記録されなかった。

 ただ、海で隔てられた島に生息しているために、ヤシガニ同士の交流は比較的制限された状態にあるものの、一部地域間では遺伝的な交流が維持されていることも分かった。ヤシガニは、成体になる前の幼生期に海に浮遊して生活するため、海流で運ばれて島の間を行き来するため、とみられる。

 研究グループは「小型化や性比の偏りが生じた個体群でも、各地域で資源管理が適切に行われれば、将来的に個体群の回復につながる可能性がある」とし、一部地域で既に実施している保全策を琉球列島全体に拡大する必要があると指摘している。