種(しゅ)の分布移動の歴史を推定する手法を開発―高級香辛料「クロコショウ」について実施:筑波大学
(2025年11月5日発表)
筑波大学の研究グループは11月5日、種の分布が過去から現在までの間にどのように移動したか分布移動の歴史を推定する手法を開発し、インドを起源とする高級香辛料「クロコショウ」を対象にしてその分布移動の歴史を推定した、と発表した。
生物種は、長い歴史の中で、気候変動・地殻変動などさまざまな環境変化に曝(さら)されながら生息する領域の縮小、拡大、分断などを起こして現在の分布になった。
こうした種の分布変遷史は、これまで古生態学、生物地理学、集団遺伝学などによって解明されてきた。
しかし、これまでの研究は種の分布と気候の関係が中心で、実際の種の移住や移動がどのように起きていたかの動的要素については考慮されていなかった。
そこで研究グループは、種の分布の歴史的変遷をより精度高く解明できるようにしようと新たな解析手法を開発し、それを使ってインドの西ガーツ山脈を起源とする世界で最も価値の高い香辛料と言われているクロコショウを対象に14の集団から243個体のサンプルを採取して、そのDNA情報の解析により最終氷期最盛期(約21,000年前)から現在までの間に起きたクロコショウの分布変遷の歴史を推定した。
その結果、21,000年以前は現在よりもクロコショウの分布面積が広く、それ以降15,700年前にかけて分布が縮小し、その後湿潤な気候により分布の移動・拡大が起き13,300年前に分布域が最大となった後、縮小・分断化が生じていた、と推定される大きな変遷があったことが判明したという。
さらに、クロコショウの移住速度は、100年あたり4,000mと推定され、クロコショウの1世代を3~5年と見て1世代あたりの移動分散が120~200m程度あったとしている。
香辛料は、人間の活動と密接な関係にある重要な植物で、特にクロコショウは世界で最も価値が高いとされているだけに、今回得られた成果は遺伝資源的に重要で、野生種に加え栽培品種を用いた研究を目下続けて進めている。
研究グループは、哺乳類、昆虫、両生類など森林のさまざまな生物種にもこの新手法の適用を試みる予定といっている。



