老化卵子の染色体数異常を抑止することにマウスで成功―高齢化に伴う不妊、流産、先天性疾患の抑止に道:理化学研究所
(2025年11月4日発表)
(国) 理化学研究所 生命機能科学研究センターの研究チームは11月4日、老化した卵子の染色体数異常を抑止する技術の開発にマウスを使った実験で成功したと発表した。晩婚化や妊娠の高齢化などで浮上している染色体数異常の克服に向けた研究の進展が期待されるという。
卵子の染色体数異常は、染色体の数が正常な卵子のそれとは異なる現象で、卵母細胞の減数分裂における染色体の早期分離によって引き起こされ、不妊・流産やダウン症など一部の先天性疾患の原因となる。
これまでの研究で、老化した卵母細胞では、染色体の接着が弱まっており、紡錘体の微小管で引っ張られる力に耐えられず、早めのタイミングで分離する染色体が見られることが知られている。早期分離した染色体は、紡錘体の微小管と正しく再接続できず、染色体分配エラーに至る。
研究チームは、染色体の早期分離を防止する技術を開発すれば、加齢に伴う卵子の染色体数異常を抑止することができるのではないかと考え、今回その開発に取り組んだ。
開発したのは、動原体の人工物である「人工動原体ビーズ」を卵母細胞に注入する技術。動原体は、染色体のくびれ部分の上に形成されるたんぱく質複合体で、染色体分配の際に、微小管が染色体を動かすためのけん引部位となる。
先行研究で人工ビーズ使用の効用が見出されていたことから、今回その効果の増大を試みた。具体的には、人工動原体の材料となるたんぱく質群のそれぞれをコードするメッセンジャーRNAを試験管内で合成し、それらを混合してマウス卵母細胞に注入、人工動原体クラスタの生成をみた。
得られた人工動原体クラスタは、微小管と自律的に接続する能力を持ち、染色体に接続しようとする微小管に対する「おとり」として働くことで、微小管と染色体の過剰な接続を抑える効果を持っていることが示された。
これは、卵母細胞の染色体の早期分離を防止し、老化卵子の染色体数異常を効果的に抑止した初めての成功例という。
今後はこの技術のヒトへの適用に向け研究を詰めたいとしている。



