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練習を積んだランナーの下肢は一般人より軽いが、振りやすさはあまり変わらない―長距離を経済的に移動するためにヒトが種として獲得した基本的な特性か:筑波大学

(2025年10月30日発表)

 筑波大学体育系の佐渡 夏紀 助教の研究グループは10月30日、ランナーと一般人の下肢の内部構造を精密に調べた結果、ランナーの下肢は練習で軽くなっているにも関わらず振りやすさ(走りやすさ)は一般人とあまり変わらないことを見つけたと発表した。長距離を歩行するためにヒトが種として持っている基本的な特性と見ている。

 ランニングで「走る」動作には、蹴り出した下肢を前後に振り戻す段階がある。付け根(太腿)が重く末端(足首付近)が軽い先細りの下肢の方が振りやすく、エネルギー消費が抑えられるために有利と見られていた。

 ランナーは日常的な練習で脂肪量を削ぎ落としていることから、一般人より下肢が軽く(質量が減少)なっている。そこでランナーと一般人の下肢の内部構造(骨、筋肉、脂肪)を精密に計測した。

 男子大学生ランナー22人と、身長が同程度の運動習慣のない同年代の男子一般大学生18人を対象に、磁気共鳴画像化装置(MRI)などを使い、下肢の重さと回転のしにくさ(慣性モーメント)を測定した。慣性モーメントとは、股関節を中心軸とし下肢全体の振りやすさ(振りにくさ)を示す指標をいう。

 この結果、練習を積んだランナーの下肢は一般大学生と比べて17%軽かった。ところが慣性モーメントは一般大学生と比べ10%の差しかなく、質量の減少ほどには差が大きくないことが判明した。

 慣性モーメントの個人差に影響する要因を測定すると、一般人の個人差は主に大腿(股関節から膝関節の部分、下肢の付け根側)の「筋量と脂肪量」とに関係していた。ランナーの個人差は特に下腿(膝関節から足関節の部分、下肢の先端側)の「筋量」と強く関係していた。

 ヒトの下肢の質量(筋量と脂肪量)の変化の大部分は下肢の付け根側で起こるため、体型の変化にかかわらず経済的な移動能力を維持できるものと考えられる。

 ヒトは動物の中でも長距離走が得意な種である。長距離で経済的に移動するために、ヒトが種として持っている基本的な特性としている。

 一般人が下肢の振りやすさを高めるには脂肪を減らすことが有効であり、減量が進んでいるランナーがさらに振りやすい下肢を獲得するためには、ふくらはぎに不必要な筋をつけ過ぎないことが重要である。

 このポイントは、コーチやランナーの指導にとって実践的なヒントになるとしている。