単分子・単原子の分析を可能にする新型電子顕微鏡を開発
:産業技術総合研究所/物質・材料研究機構ほか

 (独)産業技術総合研究所は7月6日、物質・材料研究機構、日本電子(株)と共同で、有機分子・生体分子などの分析を可能にする新型電子顕微鏡を開発、これまで不可能だったカルシウム原子の可視化に成功したと発表した。
 この研究は、(独)科学技術振興機構の目的基礎研究事業の一環として、従来の電子顕微鏡では不可能であった有機分子・生体分子などの観察を可能にすることを目指し平成18年10月から進めてきたもので、低加速電子顕微鏡と新型収差補正技術を使った新型電子顕微鏡を開発してそれを可能にした。
 電子顕微鏡には大きく分けて、電子銃からの電子線を観察しようとする試料に照射し、薄い試料を透過した(通り抜けた)電子を蛍光面に衝突させて試料の拡大像を見る「透過型電子顕微鏡(TEM)」と、厚い試料の表面に電子を当てて、そこから反射、または発生してくる電子を捉え、表示装置を通して見る「走査型電子顕微鏡(SEM)」があるが、今回開発したのはTEM。
 電子顕微鏡の分解能は、「入射電子の加速電圧」と「レンズの球面収差」の2点で決まる。収差とは、理想的な結像と実際の結像とのずれのこと。加速電圧は、試料に照射する電子を加速するための電圧をいう。
 今回、研究グループは、「デルタ型収差補正機構」と呼ばれる全く新しい球面収差補正機構を考案し、これを組み込むことによって通常200~1000kV(キロボルト)である電子顕微鏡の加圧電圧を30~60kVまで低減することに成功した。
 新技術のデルタ型収差補正機構により、これまで高電圧の電子線によって壊れやすく観察が困難であった有機分子や生体分子一つひとつの観察が実現可能となった。 
 開発した新型電子顕微鏡は、単分子・単原子の元素分析技術を飛躍的に向上させ、特に従来の技術では不可能であったカルシウム単原子の元素分析を実現した。
 この研究成果は、7月5日(英国時間)に英国科学雑誌「Nature Chemistry」のオンライン版に掲載された。

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