(独)農業・食品産業技術総合研究機構の動物衛生研究所は6月16日、動物用ワクチンメーカーの㈱微生物化学研究所(京都・宇治市)と共同で、豚に飲ませるワクチン技術を世界で初めて開発、特許出願したと発表した。このワクチンを水や人工ミルクに混ぜて飲ませるだけで免疫が得られる。個々の豚にワクチンを注射する手間が省け、一つのワクチンで複数の感染症に対応できる。この手法は、種々の感染症に対する経口投与型次世代ワクチンにつながる基板技術として期待される。
農林水産省の畜産統計では、国内で飼育している豚は平成20年迄の20年間、約1,000万頭を保っているが、この間に飼育戸数は約7分の1に減り、1戸当たり飼育頭数は約6倍に増えた。
このような飼育の大規模化・集約化に伴って病気の豚も増え、平成20年度には190万頭以上の子豚が死んだと推測されている。その死因の多くは、ウイルスによるものとされ、生産現場では大幅な省力化が期待できる経口投与型のワクチンが求められてきたが、これまで実用化に至らなかった。
今回、研究陣は、豚マイコプラズマ肺炎(致死性は低いが、感染率が高い)の主病原体の遺伝子を豚丹毒菌ワクチン株に組み込み、これを豚に投与することで豚マイコプラズマ肺炎に対する免疫を誘導できることを見出した。これには、豚丹毒菌が豚の免疫器官に効果的に取り付き、免疫を誘導する性質を利用した。これらの知見を基に、豚丹毒菌、豚マイコプラズマ肺炎に有効なワクチン株を産出するのに成功した。このワクチン株を人工ミルクに混ぜて飲ませるだけで豚丹毒菌に感染しても死亡しないこと、豚マイコプラズマ肺炎病原体株を接種しても病変が抑えられることを確認している。
ワクチン投与は、注射と違って押さえつける必要がないので豚へのストレスを減らせる。また、経口投与型ワクチンは、初乳を通じて母豚から子豚が引き継ぐ移行抗体の影響を受けにくいことからワクチンプログラムが組み易い。