細胞核内の機能不明のRNAを個別に分解する方法を開発
:産業技術総合研究所

 (独)産業技術総合研究所は6月16日、ヒトやマウスの培養細胞の核内に多数存在する機能不明のRNA(リボ核酸)を個別に分解し、それらのRNAの機能解明に導く方法を解明したと発表した。
 機能不明のRNAは、タンパク質を作るための情報を持たない(アミノ酸配列をコードしない)ため、「ノンコーディングRNA(ncRNA)」と呼ばれる。これまでの遺伝子発現の概念では、遺伝子からタンパク質が作られる過程でRNAは重要な働きをすると考えられていたが、ncRNAはそうした考え方とは異なり、RNA自身が「機能性RNA」として別の機能を持っているとみられている。ncRNAは、これまでにヒトやマウスのゲノムから数千種類見つかっている。しかし、その機能はほとんど明らかになっていない。ncRNAの研究は、世界的にも始まったばかりで、研究手法の開発が重要な課題となっている。
 研究グループが今回開発した技術では、まず研究対象(標的)のncRNAと対になる塩基配列を持つ1本鎖のDNA(デオキシリボ核酸)を化学合成する。化学合成されたDNAはアンチセンスDNAと呼ばれる。これをエレクトロポレーションという高電圧を使った特殊な方法で、細胞の核内に直接導入する。導入されたアンチセンスDNAは、核内の狙った(標的の)ncRNAと結合し、DNA-RNAハイブリッド2本鎖を形成する。核内には、DNA-RNAハイブリッド2本鎖のRNAを分解する酵素RNase Hが存在するので、ハイブリッドを形成した標的のRNAのみが分解される。
 これにより、核内の狙ったRNAのみを分解できるため、分解前後の細胞の生物機能を比較することで、そのRNAの役割(機能)の解明につなげることができる。
 アンチセンスDNAの細胞核への導入は、従来脂質小胞を介した方法で行われていたが、導入効率が低くて核内ncRNAが完全に分解されず機能解析が困難であった。新しい方法により、核内への導入効率が飛躍的に高くなり、核内ncRNAの分析効率も大きく上がった。
 この方法で分解が確認された核内ncRNAは、すでに50種類以上にものぼっている。また、それによる細胞の生物機能の変化を10種類以上のヒト、マウスの培養細胞で確認している。

アンチセンスDNA(赤色)が細胞核内に導入された様子(提供:産業技術総合研究所
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