(独)産業技術総合研究所は12月8日、日本電子(株)と共同で、大気圧下で湿った試料や溶液中の試料を観察できる「大気圧走査電子顕微鏡」を開発したと発表した。 これまでの電子顕微鏡は、高い分解能を有するが、真空中で試料を観察する装置であるため、湿った試料や溶液中の試料を観察することはできなかった。今回、山形県工業技術センターの協力で、試料を載せる特殊な皿「薄膜ディッシュ」を開発したことにより、湿った試料や溶液中の試料を観察することが可能になった。 通常の電子顕微鏡は、電子銃が試料の上方にあるため、電子線は試料の上方から照射される。今回開発した電子顕微鏡は、下端に電子銃がある倒立型の走査電子顕微鏡。試料を載せる薄膜ディッシュの底面には、半導体微細加工技術を用いて作製した窒化シリコン(SiN)の薄膜窓を備えており、電子線はこの耐圧薄膜を透過して試料の下方から入射される。薄膜ディッシュの上方は、開放されており、光学顕微鏡を配置して同一視野の光学顕微鏡での観察と、走査電子顕微鏡による10nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)レベルの高分解能観察が交互にできる。 大気圧のまま湿った試料や溶液中の試料を観察できるため、従来必要であった1~数日以上に及ぶ試料の脱水・乾燥などの前処理が不要となり、飛躍的に観察効率を向上できる。また、乾燥による試料の変形も回避できる。 新しく開発した電子顕微鏡で、これまでに溶液中の細胞について、細胞内小胞体の構造観察や、細胞が外来の異物を飲み込む瞬間の観察、などに成功した。 開放型試料室で電子顕微鏡観察ができるこの技術は、我が国独自の技術で、基礎生物学だけでなく、将来は創薬や湿潤試料を扱う医療現場などにも活用できるものと期待されている。
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新開発の大気圧走査電子顕微鏡の試作機(提供:産業技術総合研究所) |
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