(物)物質・材料研究機構と東北大学は12月8日、約40億~38億年前の初期地球で起きていたと思われる隕石の海面衝突の模擬実験を行い、アミノ酸の一種であるグリシンなど“生命の元”になる有機分子とその前駆体の生成に成功したと発表した。 この実験は、共同研究グループの一員である同機構の中沢弘基・名誉フェローが著書で提案している「有機分子は初期の地球で激しかった微惑星・隕石の海洋爆撃により、多種多様に生成した」とする「有機分子ビッグバン説」に基づき、本当に窒素大気と海水に隕石が衝突した衝撃で生物有機分子が生成するか否かを確かめるために行った。 実験では、隕石に相当する鉄と固体炭素、初期地球に相当する水と窒素ガスをステンレスの容器に入れ、これにステンレス製の“弾丸”を火薬銃で秒速約1kmに加速、衝突させた。“弾丸”が衝突した時、容器の内部圧力は60億パスカル(パスカルは圧力の単位、1パスカルは約10万分の1気圧)、温度は3,000~5,000ºCに達したと推定されている。 回収したカプセルから水溶性有機物を抽出、試料が僅かなため、アミノ酸、アミン、カルボン酸(有機酸)の分析だけを実施した。その結果、最も簡単なアミノ酸のグリシンと、酢酸など5種類のカルボン酸、3種類のアミン(メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン)の生成を確認した。 1970年代以降の地球科学の研究では、原始地球は全地球が一旦溶融するほどの高温になって“マグマの海”が出現、大気中に有機分子やメタン、アンモニアなどがあったとしても、高温のマグマに接して分解され、軽い水素は宇宙空間に散ってしまい、窒素と酸化炭素を主とする大気が形成されたと推定されている。 このため、それまでの原始地球の大気には、メタンやアンモニアが多く含まれていて、雷などの放電で大気中に有機分子が合成されたとする従来説は前提条件が崩れてしまい、生命の起源に迫る生物有機分子発生の新しい仕組みの謎解きが追究されている。
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実験に使った「一段式火薬銃」(提供:物質・材料研究機構) |
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