ポジトロニウム負イオンの共鳴状態を観測
―世界で初、三体量子系の解明に向けて一歩前進
:高エネルギー加速器研究機構/東京理科大学/理化学研究所(2016年3月16日発表)

 高エネルギー加速器研究機構(KEK)と東京理科大学、(国)理化学研究所の研究グループは3月16日、陽電子1個と電子2個が束縛し合って形成される複合粒子「ポジトロニウム負イオン」の共鳴状態の観測に世界で初めて成功したと発表した。三体量子系の解明に向けての大きな成果という。

 

■存在は30年以上前から予測されていたが…

 

 電子とその反粒子である陽電子が束縛し合った状態の複合粒子をポジトロニウムといい、ポジトロニウム負イオンは、ポジトロニウムにもう1個の電子が加わった状態を指す。

 このポジトロニウム負イオンに特定の波長の光を照射すると、共鳴状態と呼ばれる、ポジトロニウムと電子の束縛が一時的に継続している状態を経て、短時間のうちに電子が一つ分離し、ポジトロニウムと電子に分かれると考えられている。

 束縛が一時的に継続する共鳴状態を観測することは、3つ以上の量子が織りなす、いわゆる量子多体問題の解決に向けての重要な一歩になるとされている。この共鳴状態は30年以上前から存在が理論的に予測されていたが、これまで観測に成功した例はなかった。

 研究チームは今回、ナトリウムを蒸着したタングステンを使ってポジトロニウム負イオンを効率よく生成し、これに波長230nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)近辺のパルス色素レーザーを照射して共鳴状態を作り出すことと、その観測に成功した。観測データは理論とよく一致していることが認められたという。

 ポジトロニウム負イオンが電子1つ分離してポジトロニウムになる現象を光離脱というが、今後は広い範囲の波長のレーザーを使って光離脱の全容解明などを目指すという。

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