世界最高レベルのQ値、光ナノ共振器を大量製作
―フォトリソグラフィ法使い30cmのシリコンウエハーに
:産業技術総合研究所/大阪府立大学(2016年3月16日発表)

 (国)産業技術総合研究所と大阪府立大学は3月16日、150万クラスのQ値(共振器が光を閉じ込める強さ)を持つ世界最高レベルの光ナノ共振器の作成に成功したと発表した。半導体製造で実用化され大量生産が可能なフォトリソグラフィ法を使ったものでは世界で初めての成果。シリコンレーザーや光集積回路で必要となる光メモリー、医療診断センサーなどへの応用が期待される。

 

■シリコンレーザーや光メモリーの実現に弾み

 

 フォトニック結晶は、光を微小空間に閉じ込め、曲げ、分岐など自在に操ることができる光素子をいう。シリコンの薄板に直径200nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)程度の微小な空気孔を空けたもので、電子顕微鏡で見ると周期的に並んでいる。

 半導体は電子の流れを制御することでさまざまな電子機器を実現したが、急速な高速化、高密度化によって銅配線の伝達速度に限界が生じ、発熱が処理速度などに大きく影響してきた。これに対して光の伝達速度は電子より早く、発熱の心配もないため、フォトニック結晶を基板に使う「光半導体」は情報通信の高度化、省エネルギー化にとって欠かせなくなっている。

 光ナノ共振器は、これまで電子線を当てて集積回路のパターンを作成する電子線リソグラフィ法で作られていた。しかし描画が非常に遅いため、工業化にはそれより100万倍生産性が高いフォトリソグラフィ法の実現が待たれていた。

 最高レベルの光ナノ共振器を作った大阪府立大と、世界トップレベルの半導体製造技術を持つ産総研が知識とノウハウを持ち寄り、高Q値光ナノ共振器を実現した。これによって大面積30cmのシリコンウエハー全面に、光ナノ共振器を高い精度で形成した。全体の形状が均一で、垂直性の高い円形の空気孔が作られていた。

 複数のサンプルからQ値は平均150万、最高で200万以上が得られた。これによって1μW(マイクロワット)でも発振できるシリコンレーザーの大量生産や、光集積回路に必要な光メモリー、発電効率の高い太陽電池の開発にも弾みがつくとみられている。

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図

フォトリソグラフィで作製したフォトニック結晶の電子顕微鏡写真。厚さ225nmのシリコン薄板に直径200nm程度の空気孔が周期的に形成されている。左上は、空気孔の拡大図、右上は、空気孔の断面図、下は、光ナノ共振器周辺の全体図(提供:(国)産業技術総合研究所)