直達放射(右)と散乱放射(左)を測定している分光法放射計。直達放射は筒をつけて太陽の方向からの日射だけを測定、散乱放射は太陽の方向を黒い球で隠して測定する。いずれも太陽追尾装置がついている(提供:筑波大学)
筑波大学と九州大学の研究グループは3月15日、太陽から直接届く光と、大気中の微粒子などによって散乱しながら届く光とを分けて観測した結果、陸上植物の葉には、直達日射の最も強い波長域の吸収を避けるような機構があり、結果として植物の葉からの緑色光の反射が増えていることが明らかになったと発表した。陸上植物が緑色である理由が解けたとしている。
■葉では緑色光も含めすべての光を効果的に利用
植物が受ける光には直達日射と散乱日射があり、それらの観測や特性の解析が重要だが、これまで信頼できる測定例はなかった。
研究グループは(国)宇宙航空研究開発機構、(国)国立環境研究所、高層気象台と協力し、放射計に筒を取り付け、太陽の方向からの日射だけを測定する分光放射計と、太陽の方向を黒い球で隠して散乱放射を測定する分光放射計を作製し、直達放射と散乱放射に分けて太陽からの光と空の色を精密に長期間観測した。
これらの観測データと、植物の吸光特性との関係を解析した結果、葉の中で光をとらえる葉緑体の光合成タンパク複合体は、晴天時の直達日射の最も強い緑色波長域(550nm:ナノメートル、1nmは10分の1nm)の光を避けるように精密に構成されており、過剰な熱吸収を避け葉緑体レベルの直達日射の吸光指数は散乱日射よりも1割以上小さくなっていた。
イネとミズナラの葉の光吸収スペクトルと直達日射のエネルギー分布を調べたところ、日中に直達日射の放射照度の最も大きくなる550nm付近で最も光を吸収しないことが実際に確かめられたという。
葉全体では柵状組織や海綿状組織の発達によって葉の内部で何度も光の反射・吸収が生じるため、緑色光も含めてすべての光が効果的に利用されていることも明らかになったという。
日射の方向特性や波長特性に関するこうした知見は、葉の性質の調節や作物の収穫の増大、光障害の低減などの技術開発に役立つとしている。