水中・土壌中農薬濃度。折線が水中の農薬濃度、棒グラフが土壌中農薬濃度(提供:(国)国立環境研究所)
(国)国立環境研究所は3月16日、水稲栽培で広く使用されている浸透移行性殺虫剤が水田の生物相に与える影響を実験用水田で調査した結果を公表した。それによると、調査対象の薬剤の一部にトンボへの顕著な影響が見出された。現在の農薬登録の枠組みの下で審査を通過した農薬であっても、一部の野生生物に予期せぬ影響をもたらす可能性が示されたとしている。
■水中濃度減少するも土壌中は増加
浸透移行性殺虫剤は、有効成分が植物体に取り込まれて移行する性質がある薬剤を指す。近年その普及に伴い、浸透移行性殺虫剤のうちの一部薬剤が原因でトンボが減少しているのではないかと指摘されていた。
国環研は今回、浸透移行性殺虫剤のうちタイプの異なるクロチアニジン、フィプロニル、クロラントラニリプロールの3剤について、実際の水田に近い環境を再現した実験用水田で影響評価試験をした。
その結果、いずれの農薬も、水中濃度は3カ月程度で検出限界レベルまで減少したが、いずれの農薬も土壌中濃度は田植え後から徐々に増加し、試験終了時まで(140日)検出された。
生物群への影響では、クロチアニジン(ネオニコチノイド系)とクロラントラニリプロール(ジアミド系)で、プランクトン類やユスリカ幼虫に軽微な影響が検出された。ただ、時間の推移とともに無施用の水田に近い状態になった。
これに対し、フィプロニル(フェニルピラゾール系)ではシオカラトンボ、ショウジョウトンボ、ナメラカハシミジンコに個体数の減少が現れた。ユスリカやチビゲンゴロウ、イボカイミジンコの一種には逆に個体数が増加した。
トンボ類に着目した解析では、フィプロニルを用いた水田でショウジョウトンボのヤゴの捕獲個体数が有意に減少、シオカラトンボのヤゴ捕獲個体数はいずれの水田でも減ったが、フィプロニルを用いた水田では特に顕著な減少が認められた。
水田で羽化した後のシオカラトンボの羽化殻はクロチアニジン、フィプロニルで有意に少なくなっていたが、なかでもフィプロニルの水田ではまったく羽化が確認されなかった。
これらの結果について国環研は、「一部の殺虫剤は水田中においてトンボ相に深刻な影響を及ぼすリスクがあることが示された」とし、土壌中に農薬が長期間留まることに関しては、「次年度以降にどのような動態を示すのか、またそれが生物群にどのような影響を及ぼすのか、今後長期的な追跡が必要だ」としている。