東京大学と筑波大学の研究グループは11月25日、脳の中で記憶が安定してつくられるための仕組みを解明したと発表した。記憶を作るために必要な受容体が必要な場所に集められる「受容体輸送の脱線防止機構」を初めて明らかにしたもので、記憶形成や学習機能の解明、受容体輸送の異常が関連している精神神経疾患の治療法の開発などにつながる成果という。
■認知症や統合失調症などの治療法開発に期待
動物の記憶や学習に欠かせない脳内の物質として、「NMDA型グルタミン酸受容体」と呼ばれるものが知られている。このNMDA型グルタミン酸受容体は、神経細胞間の連結部であるシナプスにおいて、神経伝達物質のグルタミン酸を受け止める働きをするもので、脳の中で記憶が作られるためには、このNMDA型グルタミン酸受容体があらかじめシナプスに輸送されて集められている必要がある。
NMDA型グルタミン酸受容体のこの輸送には「KIF17」という分子モーターがかかわっており、細胞内にある長い管状のチューブである微小管をレールとし、分子モーターはその上を移動して受容体をシナプスに運ぶ。その際、輸送の安定性、正確性が求められるが、それを保つ仕組みはこれまで分かっていなかった。
研究グループは、「PSD-93」という分子を介してNMDA型グルタミン酸受容体に結合する「MAP1A」という分子に着目し、その働きを調べた。その結果、MAP1Aはシナプスへ輸送される途中のNMDA型グルタミン酸受容体を微小管につなぎ、安定化することでレールからの脱線を防ぎ、輸送の効率化と安定性の向上に役立っていることを突き止めた。
MAP1Aを欠いたマウスの神経細胞では、NMDA型グルタミン酸受容体がシナプスへうまく運ばれず、その結果としてマウスの記憶能力は著しく損なわれていた。
今回の発見は、NMDA型グルタミン酸受容体の機能とかかわりの深い認知症や統合失調症などの治療法の開発に役立つという。

分子モーターで輸送中のNMDA型グルタミン酸受容体とMAP1A、PSD-93で係留中のNMDA型グルタミン酸受容体(提供:筑波大学)