
初めて商業衛星を打ち上げたH-Ⅱロケット29号機(提供:JAXA)
三菱重工業(株)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は11月24日午後3時50分、JAXAの種子島宇宙センター(鹿児島県・南種子町)からカナダ・テレサット社の静止型通信放送衛星「テルスター12V」をH-ⅡAロケット29号機で打ち上げ、所定の軌道に乗せたと発表した。国産ロケットでの商業衛星打ち上げは今回が初めて。
■今後の課題はコスト削減
今回の成功でH-Ⅱロケットは29回中28回の打ち上げに成功したことになり、成功率は96.6%と、世界最高水準の信頼性を誇る。だが、これまでに打ち上げた衛星は国やJAXAの衛星ばかりで、商業衛星はなかった。というのも現在、世界の商業衛星の中核は赤道上空高度3万6000kmの静止軌道を飛ぶ静止衛星だが、JAXA種子島宇宙センターの緯度は北緯30度付近だ。
このため、種子島からの静止衛星打ち上げは高度稼ぎや軌道面取りなどに手間がかかる。その点、赤道に近い南米仏領ギアナに発射場を持つ欧州のアリアンヌスペース社の方が断然有利。世界の商業衛星打ち上げ市場参入を目指す三菱重工は、この立地上の不利克服のためJAXAと協力、2段目ロケットエンジン性能などを改良し、2回だったエンジン噴射を3回できるようにし、また、機体に白い塗料をほどこし燃料の液体水素の太陽光の熱による時間当たり蒸発を約30%減らすなどして、衛星をこれまでよりも静止軌道に近づけて投入した。
世界の商業衛星打ち上げは年間20~30機だが、アリアンスペース社の打ち上げ費用は1機当たり約70億円といわれ、H-Ⅱの約100億円より安い。日本も20年度初打ち上げを目指す新型のH-Ⅲロケットで打ち上げ費用を約50億円まで下げる方針だが、アリアンスペース社も次世代ロケットでコスト半減を狙っているようだ。世界の商業衛星打ち上げをめぐって今後、打ち上げコスト削減競争が激化しよう。
「テルスター12V」は最終的には赤道の西経15度付近に静止し、南アメリカから大西洋、欧州、中東、アフリカに及ぶ広いサービスエリアをカバーする。