筑波大学と国立循環器病研究センターの共同研究グループは8月25日、血管内皮細胞に発現する低分子量Gタンパク質「Arf6」が、腫瘍血管新生で重要な役割を果たし、腫瘍の成長に深くかかわっていることを突き止めたと発表した。この研究成果をもとに新たな抗がん剤を開発できる可能性があるという。
■血管新生阻害剤として新たな抗がん剤の開発に期待
腫瘍はさまざまな血管誘導因子を放出して腫瘍血管を新生させ、血液から酸素や栄養素を摂取する。この血管新生を抑えれば腫瘍の成長を阻止できるため、血管新生阻害剤の開発が精力的に進められてきた。中でも血管新生にとってきわめて重要な分子である血管内皮細胞増殖因子「VEGF」の阻害剤が多数開発されて臨床応用されている。
しかし、現在のところ抗腫瘍効果は限定的で、患者の予後の大きな改善には至っておらず、「VEGF」以外の血管誘導因子の役割が改めて見直されている。
研究チームは細胞内における指令信号の伝達、いわゆる細胞内シグナル伝達に関わっている低分子量Gタンパク質「Arf6」に着目し、今回、血管内皮細胞の「Arf6」遺伝子を欠いたマウスを作り、マウスの背中に腫瘍細胞を移植して腫瘍血管新生の状態や腫瘍組織の成長を調べた。
その結果、「Arf6」遺伝子欠損マウスの腫瘍細胞では、そうでないマウスに比べ腫瘍血管新生と腫瘍の成長が明らかに抑制されていた。また「Arf6」は、がん細胞が分泌する肝細胞増殖因子「HGF」により誘導される腫瘍血管新生に関与していることなども見出した。
これらの知見は、「Arf6」シグナル伝達系が血管新生阻害剤の新たな創薬標的として位置づけられることを意味しており、今後、新たな抗がん剤の開発が期待されるという。