
左は、幼若ホルモンを作れないカイコ。古い幼虫の皮がうまく脱げず不完全なさなぎに。右は、通常のカイコのマユとさなぎ(提供:(国)農業生物資源研究所)
(国)農業生物資源研究所(生物研)は7月21日、昆虫の幼虫が脱皮や変態を繰り返して成虫になるのに必要なホルモンの合成や活性を助ける2種類のタンパク質を突き止めたと発表した。遺伝子操作でこれらのタンパク質が作れないカイコを作出した結果、カイコの発育が途中で止まることを確認した。農作物に大きな被害を与えるコナガなどの害虫も同様のタンパク質を持っているため、特定の害虫にだけ効果があり環境影響の少ない農薬の開発につながると期待される。
■コナガなどチョウ目の害虫に効果ある農薬開発へ
昆虫が幼虫からさなぎ、成虫へと脱皮・変態を制御するのが「幼若ホルモン」。薬剤でその働きを抑えて昆虫の成長を乱すことができれば、効果的な害虫防除が可能になるとみられている。
生物研は、幼若ホルモンが昆虫の体内で作られるときに働く合成酵素の一つ「JHAMT」と、幼若ホルモンが昆虫の体内で働くときに必要な「MET1」と呼ばれるタンパク質に注目。カイコを対象にそれらのタンパク質の遺伝子を一部改変し、幼若ホルモンが「作れないカイコ」と「働かないカイコ」を作り出して、その成長を観察した。
その結果、「作れないカイコ」では幼若ホルモンがないにもかかわらず2回脱皮をし、3回目の脱皮で小さなさなぎになってマユを作った。ただ、成虫にはなれなかった。一方、「働かないカイコ」では2回目までは幼虫のまま脱皮したものの、その後に死んでしまい成虫にはなれなかった。
カイコの幼虫は通常なら幼虫のまま4回脱皮を繰り返し、5回目にさなぎに変態してマユを作り成虫になっていく。しかし、今回の遺伝子改変カイコの実験では「作れないカイコ」「働かないカイコ」のいずれの場合も正常な成長が阻害され、成虫になれないことが確認できた。
このため生物研は、昆虫の体内で幼若ホルモンの合成や働きを助けている2種類のタンパク質の働きを阻害する薬剤の開発を進めている。カイコの仲間であるハスモンヨトウやコナガなどチョウ目の害虫の幼虫に対してだけ効果を発揮する新しい農薬になると期待している。