
磁石と高周波コイルからなるセンサーユニットの概略図。探査深度は3cm、感度領域はサイズは1.9×1.9×1.6cm3(提供:(国)産業技術総合研究所)
(国)産業技術総合研究所は5月18日、牛の霜降り状態を生きたまま計測できる非侵襲タイプの核磁気共鳴スキャナーを開発したと発表した。牧場での牛の肥育プログラムの改善や競り市での正確な価格評価に役立つという。
■誤差10%、約10秒で計測が可能に
牛は体が大きく、また長時間じっと体を固定しておくのは難しいので、向かい合う2つの磁石の間に体を固定する医療用MRIのような仕組みの装置は使えない。そこで研究チームは資源開発・地盤工学用に開発してきた、片側にのみ磁石がある片側開放型という方式の核磁気共鳴スキャナー技術を用い、体表にスキャナーのセンサーユニットをあてるだけで、短時間で体内の脂肪量などが測れる装置を作製した。
脂肪組織が赤身の筋肉組織に混ざった脂肪交雑の状態、いわゆる霜降り状態を、現在は主に超音波画像診断装置で計測しているが、脂肪と筋肉の混合比率の定量的な計測は原理的に困難だった。
脂肪交雑はロース芯(胸最長筋)の霜降り状態で決まるが、ロース芯は体表から10cm以上深いところにあって片側開放型のスキャナーでは計測困難なため、背中の首・肩付近の深さ3cmほどのところにある僧帽筋を計測し、そこから脂肪交雑を評価するようにした。
実験では、約10秒で筋肉中の水分量と脂肪量を誤差10%程度で計測できたという。短時間で済むので鎮静剤や麻酔剤は不要で、競り市での価格評価などへの利用が期待できるという。また、今後の展開として、ブランド豚やマグロなどへの適用のほか、老朽化したインフラのメンテナンスや油汚染土壌試料の計測など土木方面の応用も行いたいとしている。