エタノールから常温常圧で電力を取り出せる触媒
―有毒ガスの発生なく、従来の10倍超の高効率実現
:物質・材料研究機構(2015年5月21日発表)

 (国)物質・材料研究機構(NIMS)は5月21日、東北大学との共同研究でタンタルとプラチナからなる合金ナノ(ナノは10億分の1)粒子「タンタル・プラチナ(TaPt3)ナノ粒子触媒」を開発、常温、常圧でエタノール燃料から従来の10倍以上の電力を取り出すことに成功したと発表した。有毒なガスを発生させず、出力の大きなポリマー電解質膜燃料電池(PEMFC)の触媒として有望視される。

 

■ポリマー電解質膜燃料電池の新たな触媒に有望視

 

 エタノール燃料は、雑草や穀物廃棄物を発酵して生産できるため再生可能エネルギーとしての期待が高い。しかし、ディーゼルエンジンなどの内燃機関では酸化窒素(N2O)や一酸化炭素(CO)などの毒性ガスを排出するばかりか、N2Oは二酸化炭素(CO2)の300倍以上の温暖化効果があり、わずかでもCO2に比べて大量の排出量に相当すると懸念されている。このため近年、常温近傍で動作し、化学エネルギーを電力として取り出せるポリマー電解質膜燃料電池での利用が注目されている。

 水素を燃料とした水素PEMFCやメタノールPEMFCは開発されたが、エタノールを燃料とする「エタノールPEMFC」は、開発が遅れている。水素やメタノールにない炭素―炭素結合を効率よく切断する触媒が見つからないことにあった。

 研究グループは、タンタル・プラチナ合金ナノ粒子を開発、これを用いて常温、常圧下で実験を行ったところ、エタノール分子の炭素―炭素結合を切断、有害なCOを無害なCO2まで酸化できることが分かった。また、これまで知られているプラチナ(Pt)ナノ粒子やプラチナスズ(Pt3Sn)合金ナノ粒子触媒よりも高い電流密度を示した。タンタル・プラチナナノ粒子を組み込んだPEMFCは、プラチナナノ粒子を触媒としたPEMFCよりも高い出力密度を実現した。

 物材機構では、タンタル・プラチナナノ粒子の合成収量を現在の数十ミリグラムから10倍の数グラムに増やすことを計画している。

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図

(a)は、常温、常圧の水溶液中でのエタノール酸化反応に対するタンタル・プラチナ(TaPt3)ナノ粒子の触媒、(b)は、タンタル・プラチナナノ粒子またはプラチナ(Pt)ナノ粒子を利用したPEMFCの出力特性(提供:(国)物質・材料研究機構)