(独)産業技術総合研究所は3月18日、窒素とホウ素の原子がハチの巣状に並んだ平面シート(層)状の六方窒化ホウ素(hBN)の層と層の間隔を、赤外線レーザーを照射することで10%以上短縮できることをシミュレーションによって理論的に示したと発表した。層の間隔をコントロールできるようになれば、化学物質を層間に送り込んで新たな化学反応を起こさせることも可能になり、これまでにない新材料開発ができるものと期待している。中国・四川大学、ドイツ・マックスプランク物質構造・ダイナミックス研究所の協力を得た。3月19日の米国物理学会誌フィジカルレビューレターズのオンライン版に掲載された。
■新材料開発、レーザー産業の新分野の開拓に期待
層と層の距離が原子1個分ほどのナノ領域の物質のふるまいは、炭素原子が網目状につながったグラフェンの研究で先行していた。2004年に発見されて以来、特異な物性が知られ、低消費電力で動くトランジスタや高感度センサーなどに利用できると注目されている。
この層間の距離を短縮、調整できれば、外部から手を加えなくとも層間の物質を閉じ込めることが可能になり、これまでにない新奇な材料が作れるとみている。
レーザーを照射することで、層面の原子100万個以上が一斉に動き出すが、電荷の異なる原子がどのような動きをするかを超並列コンピューターで理論的に予測をたてた。
ホウ素(B)と窒素(N)で結ばれた網目状の層と層の間には、弱く引き合う力が働いている。今回はその格子振動の周波数に合わせた波長1.4μm(マイクロメートル、1μmは100万分1m)の赤外線レーザーを照射する。すると原子100万個以上が一斉に動き出し、窒素(マイナス電荷)原子が上に、ホウ素(プラス電荷)原子が下に集まる分極が生じる。これによって層と層の間に新たな引力が働き、元の距離の11%以上も縮められるとの予測ができた。
こうしたシミュレーションは、産総研が保有している特殊なプログラムによって実現した。世界でも数カ所しかない高度な技術である。
層間距離を10%以上も縮めることができれば、その間に挟まれた化学物質を媒介にして新たな反応を起こせるようになり、新たな電子材料などの開発につながりそうだ。また産総研では、レーザーの新しい利用方法としてレーザー産業の新分野を開拓したいと提案している。