コレステロールの働きを調節する新遺伝子を発見
―命名「ノッペラボー」、ステロイドホルモン作る器官で働く
:筑波大学/農業生物資源研究所(2014年10月10日発表)

 筑波大学と(独)農業生物資源研究所は10月10日、昆虫の脱皮などをコントロールしているステロイドホルモンを作るコレステロールの挙動調節関連遺伝子(命名「ノッペラボー」遺伝子)を発見したと発表した。この遺伝子の機能が失われるとステロイドホルモン合成細胞内にコレステロールが異常蓄積する。昆虫の発育を制御する新たな農薬開発への貢献が期待できるという。

 

■昆虫の発育抑制で新たな農薬開発も

 

 ステロイドホルモンはヒトを含むあらゆる多細胞生物において、個体の発育や性的な成熟、恒常性の維持などに関わっている重要なホルモン。生体中のコレステロールを出発材料にして生合成されるが、コレステロールがステロイドホルモン生合成器官の細胞にどのように取り込まれるのか、また、細胞内でどのように適切に輸送されるのかなどについては不明な点が多かった。

 研究チームは今回、昆虫の主要なステロイドホルモンである「エクジステロイド」、別名「脱皮ホルモン」の生合成にかかわっている遺伝子をキイロショウジョウバエを対象に調べ、エクジステロイド生合成器官で特異的に働く新しい遺伝子「ノッペラボー」を見出した。

 ノッペラボーは、生体内の解毒機能を担う酵素群「GSTファミリー」に属する酵素を作る遺伝子の仲間だが、ノッペラボー遺伝子からできる酵素は解毒作用を担うのではなく、ステロイドホルモン生合成器官でコレステロールの挙動調節にのみ作用する稀有な機能を持っていることが明らかになったという。

 その機能を調べたところ、ノッペラボー遺伝子が失われると、ショウジョウバエの発育の進行に異常が生じ、胚発生、脱皮、変態の過程が阻害された。特にノッペラボーの機能が完全に失われた胚では、胚発生の進行が途中で停止し、胚表皮に形成される体節構造がなくなってノッペラボーのようなツルツルの胚となった。

 こうした異常は細胞内におけるコレステロールの挙動の異常であり、具体的には、ノッペラボーの機能の喪失により細胞内コレステロール量が異常に蓄積されることが判明したという。

 ノッペラボーの酵素活性に影響を及ぼすような薬剤をつくれば、昆虫ホルモンを攪乱するタイプの新たな農薬になることが期待されるという。

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図

昆虫の発生の進行とエクジステロイドの変化。体液中を循環するエクジステロイドが上昇と下降を繰り返すことで、昆虫の孵化、脱皮、変態、羽化の「区切り」が誘導される(提供:筑波大学)