(独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9月26日、地球周回中の世界初の惑星観測用宇宙望遠鏡「ひさき(SPRINT‐A)」が、強力な磁場に取り囲まれた木星内部磁気圏で高エネルギー電子が磁気圏の外側から内側に向けて流れている証拠を捉えたと発表した。これは現在の学説を裏付けるものという。
■学説を裏付ける
木星は地球の1,000倍以上も強い磁場を持ち、その磁力線は木星周辺の宇宙空間に磁気圏を形作っており、その木星本体に近い内部磁気圏には高エネルギー電子の放射線帯と呼ばれる領域がある。この木星磁気圏では高エネルギー電子が磁場の弱い外側から磁場の強い内側へ流れ続けることで放射線帯が成立・維持されているとされているが、「ひさき」はこの電子輸送が実際に行われている証拠を示した。
JAXAは、この問題を木星磁気圏に直接に探査機を飛ばして探るのではなく、木星の衛星の一つである「イオ」の活火山が宇宙空間に放出している火山ガスを利用するスペクトル診断法と呼ぶ手法で調べた。「イオ」の火山ガス中の硫黄などはイオン化して木星磁場に捉えられ、「イオ」の軌道に沿ってドーナッツ状に分布するが、これらのイオンは、周囲の木星磁場の高エネルギー電子とぶつかって光を発する。
この発光の大部分は極端紫外線(EUV)領域だが、「ひさき」に積んだ分光器の観測領域がまさにこの領域。そこで、JAXAは昨年11月に「ひさき」が観測した木星磁気圏のEUVデータに対してスペクトル診断を実施、外部磁気圏に起因する高エネルギー電子が数%含まれているのを確認、さらに、その空間分布から木星磁気圏の外側から内側に向けて効率のよい電子輸送が行われていることを突き止めた。
「ひさき」は地球を周回しながら搭載したEUV分光器を使って金星や火星、木星などの惑星を遠隔観測する衛星で、JAXAが開発、昨年9月に新開発のイプシロンロケットの試験機で内之浦宇宙空間観測所(鹿児島・肝付町)から打ち上げられ、観測を続けている。