(独)産業技術総合研究所と自然科学研究機構の基礎生物学研究所は9月25日、放送大学、東京大学と協力して、厳冬期にふ化する昆虫のクヌギカメムシ類が寒い冬を乗り切る秘密を解明したと発表した。晩秋に樹木に産み付けるゼリー状物質で覆われた卵塊の中に、成長に必要な栄養と春になって植物の汁を餌にできるようにする共生細菌がいることを突き止めた。
■共生細菌で植物の汁を餌に
クヌギカメムシ類は日本を含むアジア地域に分布する。クヌギなどの樹木にゼリー状物質で覆われた卵塊を産み付け、厳冬期の2月頃にふ化する。3月以降の芽吹き時期にはゼリー内で成長した幼虫が植物の汁を吸い始める。
研究グループは、このゼリー状物質が果たす役割を調べるため、クヌギカメムシの卵塊を野外で採取、その状態を変えて卵のふ化率や幼虫の発育状況を観察した。比較した卵塊の状態は、①採取したままの卵塊、②ゼリーを除去した卵塊、③ゼリーを除去した後に再びゼリーで覆った卵塊――の3つ。
その結果、ふ化率はどのケースでも変わらなかったものの、脱皮する割合はゼリーを除去した場合が明らかに悪かった。一方、いったん除去した後にゼリーを戻したケースでは、脱皮率は一定程度回復し、ゼリーが幼虫の成長に欠かせないことが分かった。
そこでゼリーの成分を分析したところ、水分が60%で26%は炭水化物、8%がタンパク質だった。炭水化物を構成する糖類は90%以上がガラクトースで、これを主成分とする多糖類「ガラクタン」がゼリー状物質を構成しており、幼虫が成長するのに必要な栄養分が十分に含まれていた。
ゼリー内部にはクヌギカメムシの共生細菌の集合体が観察されたため、細菌のゲノム(全遺伝情報)解読を試みた。その結果、タンパク質産生に必要な必須アミノ酸類を合成するための遺伝子が見つかり、幼虫が植物の汁を餌にするのに役立つことが分かった。
研究グループは、産卵直前のクヌギカメムシの雌を解剖し、卵巣内の卵塊ゼリーに共生細菌の集合体が存在することも確認。幼虫が春以降にゼリーを食べることで親から共生細菌も受け継ぐことが分かった。
研究グループは今後、ゼリーを構成するガラクタンの構造を決定するとともに、その生理機能の解析やゼリーに含まれる可能性のある抗菌物質の検討を進める。

ゼリー状物質で覆われた卵塊を産むクヌギカメムシ雌成虫(提供:産業技術総合研究所)