横浜市立大学と(独)理化学研究所は6月30日、生まれたばかりのマウスの冷凍精巣組織から精子を作り人工授精によって健康な子を産むことに成功したと発表した。生殖器官が未熟な男児ががんの放射線治療などを受けると将来的に男性不妊症になるおそれもあるが、治療前に組織を採取・保存しておくことでそうした不安を解消する生殖医療が実現できる可能性があると期待している。
■小児がん治療による不妊の不安解消も
横浜市大の小川毅彦教授らが理化学研究所バイオリソースセンター遺伝工学基盤技術室の小倉淳郎室長らと共同で成功した。未成熟な哺乳類の精巣組織を凍結保存し、解凍・培養することで健康な精子が得られたのは世界でも初めて。
実験では、まだ精子の形成が始まっていない生まれたばかりのマウスから精巣組織を採取、いったん凍結して保存した。その後、組織を解凍して培養した結果、元気な精子が得られた。そこでこの精子を顕微鏡下でマウスの卵子に直接注入、人工授精させたところ、受精卵を移植されたメスから健康なマウスが生まれた。子どもたちは正常に発育し、自然交配によって孫世代も生まれた。
精巣組織の凍結には、「ガラス化凍結保存法」と「緩慢凍結保存法」と呼ばれる2種類の方法を使い、組織細胞内の水が大きな結晶になって細胞を壊さないようにした。その結果、凍結保存しない組織を使用した場合と比べ、いずれの凍結法でも健康な精子の回収率はほとんど変わらなかった。
将来、人間の精巣組織で同様のことが実現できれば医学応用も可能になると研究グループはみている。