大気中で金属同士を常温接合する新技術開発
―熱・圧力による歪み防ぎMEMSへの応用目指す
:産業技術総合研究所(2014年6月26日発表)

 (独)産業技術総合研究所は6月26日、常温の大気中で金属同士を接合する技術を開発したと発表した。微小な機械可動部と集積回路(IC)を組み合わせた微小電子機械システム(MEMS)作りに応用すれば、従来の加熱圧着法で問題とされた熱や圧力による製品の歪みを防げるほか、大規模な真空装置も不要になる。今後、新技術の適用範囲に拡大に取り組み、企業との連携も進めて実用化につなげる。

 

■大規模な真空装置は不要に

 

 同研究所・集積マイクロシステム研究センターの倉島雄一研究員、高木秀樹研究チーム長が金の表面を滑らかにする技術を開発。金の表面粗さを従来の金メッキの約20分の1にすることで、大気中で貼り合わせるだけで金同士が接合できるようにした。

 新技術では、まずシリコン基板表面に50nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)の薄いチタン薄膜を形成、その上に金の厚膜を接合部のパターンに合わせてメッキする。次いでMEMSの微細な可動部を保護するための封止基板に、金の厚膜パターンを加熱圧着。その後にチタン薄膜を薬品で溶かすと、表面が極めて滑らかな金の厚膜パターンが封止基板に転写される。

 厚膜パターンと同じ形状の金の薄膜をMEMS基板に付け、封止基板と貼り合わせる。金の薄膜はスパッタ製膜法で作られ十分に薄いため、滑らかな表面状態を持つ。そのため加熱しなくても金の薄膜は常温でも厚膜と強固に接合、MEMS基板の微細な可動部が密封・保護される仕組み。接合部の強度を調べたところ、200℃で加熱圧着した場合と同程度であることが確認できた。

 MEMSは加速度センサーやディスプレイ用ミラー素子など、さまざまな製品に応用されている。ただ、可動部の保護や気密性の確保、ICとの電気的な接続などを同時に実現する封止工程に300℃以上の高温が必要だった。そのため大規模な装置が必要で加熱・冷却にも時間がかかるなど、コスト高の原因になっていた。熱膨張の影響で冷却後に製品が歪むなど、高信頼性を維持する点でも難点が多かった。

 産総研は今後、金の使用量を少なくできるよう新技術の改良を進め、最終的には金を使わずに接合できる技術の開発を目指す。

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左は、従来の接合方法で、右が今回開発した接合方法(提供:産業技術総合研究所)