筑波大学と大阪医科大学は3月14日、植物や微生物が人間の必須アミノ酸「トレオニン」を生合成する際の反応経路を初めて解明したと発表した。反応の最終過程で他の副反応を抑えてトレオニンを特異的に高い効率で生成する仕組みを、スーパーコンピューターによる理論計算で明らかにした。有機合成反応を効果的に制御する重要なヒントになるとして、新薬開発などにつながると期待している。
■化学、医療分野での進展に貢献期待
トレオニンは、人間が生きるのに欠かせない必須アミノ酸だが、人間の体内では作れない。植物や微生物は作れるが、多段階の複雑な反応経路で合成しており、その最終過程における詳しい仕組みは分からなかった。
そこで、筑波大の庄司光男助教と大阪医大の林秀行教授らの研究グループは、原子の世界を支配する法則「量子力学」に基づく計算法を利用、その複雑な合成反応経路の分析を試みた。
まず、スーパーコンピューターによる並列計算の効率化に取り組み、高速計算を実現。生合成の最終過程で反応を促進する触媒役として働く、トレオニン合成酵素が作るすべての中間体や反応経路を理論的に計算した。
その結果、トレオニン合成酵素が作る生成物の一つであるリン酸イオンが、他のさまざまな副反応を抑制して、トレオニンの生成反応を飛躍的に増大させていることを突き止めた。リン酸イオンの関与は実験的には知られていたが、今回初めてリン酸イオンの水素結合が重要な役割を果たしていることが分かった。
酵素が他の副反応を抑えて特定の生成物の合成反応を進める働きは、「生成物支援触媒」として知られているが、今回の成果は、その仕組みをコンピューターによる理論計算で解明できることを示した。
理論計算による分析手法について、研究グループは「今後、より短時間でより膨大な探索を行うことが可能になる」として、化学、材料、医療分野での革新的進展に貢献できると期待している。