
右のコシヒカリの方が出穂が早い(提供:農業生物資源研究所)
(独)農業生物資源研究所は7月2日、コシヒカリの出穂時期の制御にかかわっている新たな遺伝子を見出し、コシヒカリが早く穂を出す要因を突き止めたと発表した。コシヒカリ型のこの遺伝子を導入して新品種を育成すれば、様々なイネの品種の栽培時期を早めることが期待できるという。
■遺伝子「Hd16」がもたらす日長反応性の弱さ
イネは日長(日の長さ)の変化を感じて出穂する性質を持ち、日長への反応性は品種によって異なっている。コシヒカリは、日長に対する反応性が弱く穂が早く出るため、北陸地方や南東北地方でも寒くなる前に収穫できる。コシヒカリはおいしいだけではなく、出穂が早いことが日本一の栽培面積と生産量を誇る要因になっている。
イネの出穂時期を制御する遺伝子についてはこれまでに複数特定されているが、既知の遺伝子だけでは日本イネ品種の出穂時期の違いを十分に説明できず、コシヒカリの早い出穂も解明されていなかった。
研究チームは今回、全ゲノム塩基配列が解読されている「日本晴」と「コシヒカリ」とを比較、ポジショナルクローニングという手法を用いて、コシヒカリの穂の出る時期を早くする遺伝子「Hd16」を特定することに成功した。
日本晴からもHd16を特定し両者を比較したところ、DNA(デオキシリボ核酸)配列が1カ所異なっており、それに伴いHd16タンパク質のアミノ酸配列も1カ所異なっていた。両者のタンパク質を人工合成して機能を調べたところ、コシヒカリのそれは日本晴のHd16タンパク質が持つ機能に欠け、それによってコシヒカリは日長反応性が弱く、出穂が早くなったと考えられるという。
さらに野生種を含む国内外のイネ356系統を調べたところ、コシヒカリ型のHd16遺伝子は日本のイネ品種にしか存在せず、100年前に山形県で育成された「森多早生」という古い品種から伝わったことが判明したという。
同研究所では、これまでに特定された他の出穂制御遺伝子と組み合わせることで、出穂時期を自在に制御することが考えられるとしている。