(独)物質・材料研究機構と理化学研究所は7月3日、医薬や人工臓器などバイオメディカル分野で注目の新材料「ヒドロゲル」を光で自由な形に加工できる技術を開発したと発表した。ナノメートル(1nmは10億分の1m)レベルの光触媒シートと組み合わせて寒天状のヒドロゲルに光化学反応で強固な網目構造を形成、複雑な形を実現できるようにした。これまで単純な塊状の形しか作れなかったが、自由な成形が可能になったことで生体になじみやすく地球環境に優しいプラスチック代替材料として飛躍的に用途が広がると期待している。
■薬物徐放システムや細胞培地などに応用期待
ヒドロゲルは水によくなじむナノサイズの網目構造の中に水分子が閉じ込められた固体状の物質で、寒天やゼリー、コンニャクなどがその代表。水が主成分で生体適合性があり、環境問題も少ないプラスチック代替材料として注目されている。ただ、従来は鋳型に入れて塊状のものを形成する方法しかなかった。
研究グループは、紫外線を吸収して高分子の重合反応などを促進する光触媒「酸化チタン」に注目。厚さ1~数nm、縦横の幅が数μm(マイクロメートル、1μmは100万分の1m)のナノシートにして水の中に均一に分散させ、有機高分子の原料のビニルモノマーを加えた。
これに紫外線を照射すると、酸化チタンの光触媒作用により、網目中の水分子が反応性の高いヒドロキシラジカルになる。すると周囲のビニルモノマーが重合反応を開始、高分子の網目構造が成長していく。重合反応は光を照射した部位だけで進むため、半導体基板に回路を書き込むリソグラフィー技術を利用して微細加工することも可能という。
新技術によってヒドロゲルを母体にして複雑な構造体を作り出すことや、その形状を時間経過とともに成長させたり、外部環境に適応させて変化、修復したりすることも可能になるという。このため、体内で薬を徐々に放出する薬物徐放システムや、再生医療で複雑な形状の人工臓器を作る際に必要となる立体的な細胞培地など、バイオメディカル分野で多様な応用が期待できるという。