
基本シナリオで除染した場合の2014年4月1日時点の推定空間線量率(上)と推定除染費用(提供:産業技術総合研究所)
(独)産業技術総合研究所は6月4日、原発事故による放射性セシウムで汚染された福島県大熊町など除染特別地域を対象にした除染の効果と費用に関する評価結果を発表した。除染費用は最大1.2兆円以上に達し、うち8割が農地の汚染土壌の除去・保管費用などに、また6割以上が仮置き場や中間貯蔵施設といった汚染土壌などの保管にかかることが分かった。また、除染後の空間線量率は低減するものの、なお、年間線量に換算して20mmシーベルト以上と予測される地域があることも分かった。
■農地の除染に1兆円と推定
除染特別地域は、国が計画を策定し除染を進める地域で、福島県双葉郡大熊町、同郡双葉町同郡浪江町など11市町村にまたがる約1117km2。産総研はこの地域を対象に、土地利用状況や人口密度、除染モデル事業の結果に基づく除染費用・廃棄物発生量などから除染の効果と費用を試算した。
試算では、農地の表土5cmを除去、生活圏から20m以内の森林の落ち葉や腐葉土を除去、建物関連では屋根と壁のふき取り、2~3cmの表層土壌除去、道路は、細砂を吹き付けて表面を剥離するなどを実施するケースを基本シナリオとした。ほかに汚染土壌を同一農地内に埋める天地返しなど、異なる除染方法を採用する複数のシナリオも検討した。
この結果、基本シナリオでは総費用が1.2兆円以上になった。特に農地の除染費用が総費用の8割以上の1兆円に及んだ。森林と建物用地がそれぞれ10%以下、道路は1%以下となった。農地に関しては、除染廃棄物の中間貯蔵などの保管費用が総費用の6割超の8,000億円以上にのぼると推定された。
一方、天地返しシナリオや表土除去後に非汚染土をかぶせるシナリオでは、除染廃棄物の搬出・保管が必要ないため、除染費用は基本シナリオの10分の1に抑えられた。ただ、こうした方法の場合、農地や農作物に対する長期的な影響も含めて議論されるべきだとしている。
除染効果については、放射線量は一定程度減少するものの、居住制限区域などにおける除染完了の目安とされる2014年4月1日時点で、1時間当たり3.8μ(マイクロ、100万分の1)シーベルト以上の地域が残るという。年間の外部被ばく線量に換算すると20mmシーベルト以上となり、国際放射線防護委員会(ICRP)が勧告する一般人の年間被ばく限度1mmシーベルトを超えることが分かった。
評価結果について、産総研は「現状の限られた情報を基に推定したものだが、社会的重要性を考え速報として発表した」とし、今後さらに詳しい評価を進める計画だ。