宇宙線の陽子生成源は超新星残骸と判明
―フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡の観測で
:宇宙航空研究開発機構/京都大学/広島大学など

 (独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2月15日、京都大学、広島大学などの研究チームと進めていた「フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡」(通称:フェルミ衛星)による観測から、宇宙線に含まれる陽子の生成場所は、超新星の残骸であることの決定的証拠が見つかったと発表した。
 宇宙線陽子の生成源判明は1912年の宇宙線発見以来のこと。田中孝明京都大学助教をはじめとするわが国のガンマ線宇宙望遠鏡チームが2つの超新星残骸を2008年から約4年間観測したデータを解析した成果である。
 宇宙の彼方から地球に降り注ぐ宇宙線の99%は陽子やヘリウムなどの原子核だが、これらは電荷を持つので、生成源から地球に届く間に星間磁場で方向を曲げられ、宇宙線を直接観測しても、飛来方向が正しく分からない。しかし、高エネルギーの陽子や原子核が周囲のガスと衝突すると、中性パイ中間子が生じ、すぐに崩壊して特有なエネルギーのガンマ線(電磁波)を出す。電磁波なら磁場で方角が変えられないから、このガンマ線を観察すれば宇宙線中の陽子の生成源が特定可能となる。
 そこで、日本のガンマ線宇宙望遠鏡チームは、ふたご座方向にある「IC443」とわし座方向の「W44」という2つの超新星の残骸(いずれも地球から数千光年離れており、数万年前に爆発した、と考えられている)について2008年の「フェルミ」の運用開始から2012年まで約4年間の観測データを解析、エネルギーの強さの分布の特徴から、いずれも中性パイ中間子崩壊によるガンマ線放射であり、陽子は観測した超新星残骸から放出されている、と結論づけた。こうした研究は、これまでのデータ解析法の改良や較正精度の向上で可能になった。
 この研究成果は、米科学誌「サイエンス」2月15日号に発表された。
 フェルミ、ガンマ線宇宙望遠鏡は日本・アメリカ・フランス・イタリア・スウェーデンが協力して開発。2種類のガンマ線観測装置を搭載している。2008年6月、米航空宇宙局(NASA)のロケットで米国発射場から打ち上げられ、同年8月から高エネルギーのガンマ線を全天くまなくサーベイする運用を開始。研究には日米など9カ国が参加している。

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超新星残骸IC 443。マゼンタがフェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡で得られたガンマ線画像。黄色が可視光。青、水色、緑、赤は赤外線で得られている画像(NASA/DOE/Fermi LAT Collaboration, Tom Bash and John Fox/
Adam Block/NOAO/AURA/NSF, JPL-Caltech/UCLA)