筑波大学の小林達彦教授らは2月8日、横浜市立大学、九州大学と共同でアクリル繊維や合成樹脂の原料になるなど工業的に重要なニトリル化合物をバイオテクノロジーで生産する手がかりを得たと発表した。生体中でニトリル化合物の合成を促進する生体触媒「酵素」の立体構造を突き止め、その反応メカニズムを解明した。高温・強酸性の条件下で工業生産されているニトリル化合物が、生体中と同様の環境負荷の小さな条件下で合成できる技術に道が開かれると期待される。
立体構造が分かったのは、アルドキシム脱水素酵素と呼ばれるタンパク質。これまでの研究から、生体内でニトリルを分解・合成する代謝を行う際に働いている酵素であることが分かっていた。
そこで小林教授らは、まず細菌の体内からこの酵素を作る遺伝子を取り出し、遺伝子組み換え技術によって大腸菌に酵素を大量に作らせて精製・分離し結晶化させた。この結晶に横浜市立大の橋本義輝准教授が筑波フォトンファクトリーの強力なX線を照射、そのデータを解析して酵素の立体的な分子構造を突き止めた。
さらに小林教授らは、九州大学の成田吉徳主幹教授らと共同で、酵素が生体触媒として活性を発揮する際に中心となる部分の分子構造を詳しく解析した。中心部分を構成するアミノ酸の一部を別のアミノ酸に入れ替えたときに酵素活性がどう変わるかなどについても詳しく調べ、タンパク質の構造と酵素活性がどのように関係しているかを解明した。
今回の成果について、研究グループは「ニトリル合成の酵素反応メカニズムの全貌が解明できた」としており、今後バイオテクノロジーによる低環境負荷でのニトリル化合物の工業的な合成に貢献すると期待している。
No.2013-5
2013年2月4日~2013年2月10日